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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面105

鉄仮面

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳  

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                 第九十五回

 「これが天の助けと言うものですか、モーリスが率いた決死隊の中に。コフスキー以外にまだ生き残った男がいたのです。それが意外なところにいて、責め殺されるばかりの私を救い出し、この土地に連れて来てくれました。「それは実に今聞くのが初めてです。貴方がナアローに捕まって、彼の屋敷に閉じ込められたところまでは私も知っています。その時私達はどうにかして貴方を救い出したいと思い、できるだけ手だてを尽くしました。」

 「あるいはナアローを捕らえて追求し、あるいはアントイン、アイスネーの両名をコフスキーさんと一緒に、ナアローの屋敷に行かせたりしましたが、その時貴方は外の牢にでも移されたのか、影も形も見えないと言って、三人は手ぶらで帰ってきました。その時貴方はその人にでも救われましたか?」 「はい、あの時の事は今思い返してもゾッとします。ナアローに捕らえられた時は、気絶でもしていたのか、何も覚えて居りませんでした。やがて正気に戻って見ると、薄ぐらい穴倉とでも言うような一室に、私の他にも捕らわれている人がいたのです。」と言い掛けてバンダは今更のように身震いし、

 「どうでしょう。その人はいつか私がセント・ヨハネの教会で見て、化物かと驚いた黒頭巾の怪物だったのです。」「ええっ、それはまあー」「今考えても彼が誰だか分かりませんが、心は顔よりももっと醜くい男で、他に見ている人が居ないのを幸いに、色々なことをして私を苦しめるのです。私は部屋の隅で小さくなっていましたが、苦しみくたびれては眠り、しばらくして目を覚ましては又苦しめます。」

 「初めは我慢もしましたが、何日か経つうちにもう我慢が出来なくなり、と言って逃げることも、自殺することも出来ず、本当にどうしたら好いかと思っていると、彼の苦しめ方は益々きびしくなり、挙げ句は私に抱きついて淫(みだら)りがましい事をするようになり、振り払う力も有りませんでしたから、私はただヒイヒイと泣いておりますと、その所に入口の戸を開け外から飛び込んだ人が居て、その人が有無を言わさず怪物を蹴飛ばして私を抱き上げ、穴蔵の外に走りだしたところまでは覚えておりますが、その時又気絶をしたらしくその後は夢中です。」

 「分かりました。そうして穴倉が開いたものですから、怪物はそこから出てオリンプ夫人の屋敷に来て、私と夫人がナアローを追求しているところ見て、又気を変えてすぐにルーボアの所に知らせたのです。その後にコフスキーさん達が踏み込んだので穴倉はからっぽだったのです。」「それにしてもあの怪物は何者でしょう。政府で雇ってでもいるのでしょうか?」

 「そうですね、そのような不思議なことは有りませんね。もちろん、私にも考え付くはずは有りませんが。」と言い掛けてしばらく考え「はてな、事によるとその怪物は」と独り言を言ったが「いやいや、そんなことは考えられない。」と自分で打ち消し「何者かそのうち必ずはっきりして来るときが有るでしょう。それまでは怪しむだけ損です。それから貴方はどうしました。」

 「はい、それから又気が付くと丁度前に私がモーリスの傷の手当をしたような、汚い宿屋の二階寝せられて介抱されていました。ここは何処だと聞きますと、もうブリュッセル府に近いある宿場の、宿屋だから安心しなさいと言ってくれました。その人の顔を良く良く見るとどうでしょう、モーリスの部下の一勇士で馬の事に詳しいため、馬丁(べっとう)をしていたトルコ人アリーと言う者だったのです。」

 バイシンも意外な思いで「え、あのアリーが、魔が淵で殺されずにやはり生き残っていたのですか?」「そうです。この時こそ本当に夢ではないかと疑いましたが、よく聞くとアリーは確かに生き残ったのです。彼は馬の世話をする係だったので、皆の一番後ろから魔が淵に飛び込みました。皆が向こうの岸で伏兵に襲われて射殺されているとき、彼はまだ川のまん中くらいにいたのです。皆が撃たれて川に流れるのを見て、これはもう失敗したから進だけ無駄だと思い、とにかく生き残れば他にも誰か生き残る者もいるだろうから、それらの者と再起をはかるのがよいだろうと、彼はトルコ人だけに非常に落ち着いて、とっさに判断し、川の中程からそろそろと後ろに引き返し、助かったと言うことです。」

 「ああ、その場で引き返したのは実に偉い、なるほどそれが本当の勇者と言うものかも知れません。引き返したからこそ生きながらえて、他日貴方を救い出すこともできたのです。トルコ人でなければとても真似は出来ないでしょう。」「それから彼は翌日になってから、皆はどうなったかそれらの消息を探るため、やはりコフスキーと同じように姿を変えてペロームに行ったそうですが、彼はコフスキーとは違い、探偵のような事は苦手ですから何も聞き出せず、この上はパリに行って、パリの仲間と相談する他はないと思ったそうですが、旅費の持ち合わせもなかったので仕方なく、自分が得意な方面に活を求め、しばらくの我慢だと思い馬丁(べっとう)の奉公をする積もりで、伯楽(ばくろう)の斡旋所(あっせんじょ)とも言うべきところに頼みに行き、何週間かその宿でごろごろしているうちに、不思議にもそこに旅先で馬丁(べっとう)に逃げられたと言って馬丁を雇いたいと、ナアローがやってきて大勢の中から自分でアリーを選び、これが一番役に立ちそうだと言って、連れてパリに向かったと言うことです。」

 「それは本当に偶然です。」「それからアリーは皆の事が気にかかりながらもナアローの家の厩(うまや)に寝起きし、ある時は御者の代理を勤めたりしているうちに、私が気絶したまま、ナアローの馬車に乗せられてきたのを見、ナアローに力を合わせて私を穴倉に押し込んだと言うことでした。その時から機会があれば私を救おうと、なるべくナアローを油断させていたと言うことです。」「それでようやく分かりました。貴方をこの土地まで送って来て、今まで力を合わせているのもアリーですね。」「そうです。」「それにしても鉄仮面がピネロルにいる事を、貴方はどうして知りました?」

 「私が今までの事を詳しく話し、鉄仮面の事まで話しますとアリーははたと手を打ち、それでは先夜ナアローの馬車の御者となってバスチューユに行ったとき、田舎の牢屋へ移される罪人があって、ナアローが自分で指図しながら何度もベスモー所長に向かって、秘密、秘密と言うことを繰り返していたことがあったが、もしや、それではないだろうか。それならベスモー所長とナアローの話の中に、ピネロルなら誰も気が付かないだろうと言う言葉が聞こえていたと言いますから、更に詳しく聞いてみますと、丁度鉄仮面がバスチューユから送り出されたと、アイスネーが我々に話した日と一致しましたので、それが鉄仮面に違いないと思いましたから、すぐにこの土地に来たのです。」

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