巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面106

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳  

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                 第九十六回
     
 バンダの話が一段落したのでバイシンも今までの事を細々と話だした。その概略をここに書くと、ラ・クレーブの刑場で合図役のコフスキーが窓から首を出しているのを見て、いよいよ救い出されると喜んでいると、いつの間にかコフスキーは見えなくなり、代わりに意外にもナアローが首を出し、私を馬鹿にするような顔つきをしていたので、バイシンはたちまち絶望し、

 「あれー、ナアローめが」と叫ぶと、折よくこの時バイシンの台の側にいたアイスネーがこの様子に気付き、合図の窓を見てこれもナアローの顔を見破り、「おのれ」と言いながら暴れに暴れてその二階に上がって行き、ナアローの首筋を捕まえるより早く、群衆の中にひらりひらりと投げ飛ばし、自分から合図役になり、帽子を振って皆に合図を送った上で、自分は意識の無くなったコフスキーを抱き抱えて又下に下りて行き、これを手下の者に渡した。

 アイスネーのこの機転により前から雇っておいた数百人のならず者達がすぐにバイシンの乗っている台に飛びつき苦もなくバイシンを奪い去った。それ、狼ぜき者だと騒ぎ立てる人々を押し分けて、前から道順までも決めてあったと見え、刑場の裏手の林の中に逃げて来ると、死骸のようなコフスキーを抱えた男もここに来た。待っていた馬車に二人を投げ込むと、馬車も既に計画を飲み込んでいるものと見えて、一分の猶予(ゆうよ)もなく矢を射るようにここを立ち去り、ブリュッセル府へと駆け込んだ。

 そのうちにコフスキーの魔薬もさめ、今までの事を聞いてみると、コフスキー、アイスネー、アントインの三名はバイシンが捕まった時から、もはや計画はすっかり失敗したと考え、とにかく力を合わせてバイシンを救いだし、後はそれからの相談と言うことにして、夜になってはバイシン家にある宝物を類を持ち出し、秘密の品の売り買いを専門にするならず者の手を通してこれらを売り払い、その金を資金としてひたすら死刑執行の日を待ちながら、それらのならず者を取り込んで、その手下どもを何百人も雇い入れ群衆に紛れ込ませて、バイシンを救わせたと言うことです。

 中には昔アイスネーの壮士隊に属していた者もいたと言うことです。コフスキーを運び去り、あるいは馬車を用意して二人をブリュッセルに運んだのは、すべてこの手の者だと言うことです。これだけは分かったが、まだアイスネー、アントインの身の上がどうなったかは分からなかったので一週間ほど待った上で、コフスキーは自分で探って来ると言って再びパリに行き、事の次第を聞いて歩いた。

 あの死刑執行の日は政府の方でも、この様なことがあるのを想定してナアローを指揮者として、十分準備していたとかで、アントイン、アイスネーはすぐにその手に捕らわれたが、味方の者はただ人並を騒ぎたたせたり、バイシンを運びさるのに忙しく、二人を救うことが出来ず、二人は必死の力を振るい、切り抜けようとしたがその甲斐なく、ついに多数の敵に切り殺され、また窓から投げられたナアローは、その生死が分からないと言うことです。

 これだけの事を確かめて帰ってきたので、バイシンは非常にがっかりしたが、もはやどうすることも出来ず、この上は身の振り方を考えるのが第一とコフスキーと相談したが、彼は国々を遍歴してバンダと鉄仮面を捜し出すほか、目的もないと言う事なので死ぬまでその事に従事すると言い、バイシンは生まれ故郷のイタリヤに帰り、再び財産を作って、なるべくコフスキーを助けることにしようと言って、後々まで居所だけは知らせ会う約束をして、これでコフスキーと別れた。

 これから政府の目を逃れ数カ月を経た後、ようやくイタリヤに着いたがバイシンの名前は露ほども人々に知られてはいけないので、フランスの音楽の女教師と言うことにして、手に覚えのある楽器を取り、これで何とか生計だけは立てていたが、当時はルイ王の威光が大きく四方を照らし、フランス宮廷の有様と聞けば、何処の国の宮廷も真似をし、後年フランスを流行の中心とありがたがる初めで、フランスの風俗は到るところでもてはやされ、フランスの人だと誰でも尊敬された。

 すでにドイツの一小国の王であるテル侯爵は、フランスから宗教上の罪で流されてきていた女を王妃とし、その娘をハノーブル家に嫁に行かせ、その系統から今のイギリスの女王、及び王族一統も出て来たほどの事なので、フランスから外国に流れて行く女はすべて、その国の宮廷に招かれ、はては何王、何侯爵の妻とされない者はほとんど居ない状態だった。

 すでにバイシンもパルマ国の宮廷に召され、その常雇いを命じられたが、その容貌も十人並にきれいだった上、フランス宮廷の様子を何一つ知らないことが無く、すべてがフランス宮廷しこみのうえ、その物の言い方といい、その知識と言い、狭いパルマの王宮に肩を並べる者が居なかったので、国王は深くこれを愛し、当時血筋の絶えたカスタルバー侯爵の名をこれに与えてからは、さてはこの様に身分を引き上げておいて、最後には王妃にする積もりではないかと誰もが推察していると、果して数年を経て王は、バイシンに言い寄って自分と結婚してくれるよう頼んだ。

 小国ながらもイタリヤ、フランス両国に向かって幅の効くパルマ国で女王陛下と立てられることは、バイシンの身に余ることだが、再び夫を持つ気はないので、体よくこれを断わってからは、益々王の恋はつのり、バイシンに親切にすることは一通りではなかった。バイシンの望みと言えば、国を傾けても応じようと言うほどの有様になったが、あるとき王とフランス国の話になったとき、王は自分の力を誇るようにわが国でも多くのスパイを各国に送っているので、隣の国の秘密でも何一つ分からないものはない。

 既に隣のフランス政府が、大の秘密にしている囚人に、鉄の仮面をかぶせていることも知っており、今はその者がピネロル砦に隠されていることまで知っていると話してから、バイシンは好いことを聞いたと喜び、すぐに鉄仮面救出の計画を立て、王にも誰にもその事は話さず、ただ漫遊のためと言ってこの土地に来たのだと言う。これからバイシンはどんな計画で、鉄仮面を救い出す積もりなのだろう。

つづきはここから

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