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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面126

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百十六回

   
 国王に願い出てさえも、面会が許されないのでは、これ以上やってみるべき方法はない。バンダは全く絶望して王宮を出て来たが、もう一度王が言った事をよく考えてみると、鉄仮面はオービリヤではなくて、自分の夫アルモイス・モーリスに違いない。今まではどちらだろうと疑ってとにかく顔が見たいと願っていたが、既にモーリスと決まったからには顔を見るまでもなく、ただ救い出すことに専念するだけだ。だからと言って王が言ったように鉄仮面は国法の上からは既に死刑に処せられ、彼の一生は鉄仮面に葬られたので、今後どんな大赦(たいしゃ)があって、世界中の罪人がすべて許されることがあっても、モーリスだけは許される見込みはない。

 病死して葬られるとき以外は、決して牢から出されることはないのだ。これを思えば、私とモーリスとは、生きて再び会うことはできない身の上なのだ。魔が淵での大難が、すなわちこの世の死に別れと言う事なので、彼を救うのにはただバイシンが教えたように、毒薬で彼を自殺させ、牢の外の教会の墓地に葬られるのを待って、その死骸を堀だして、これに反対の解毒剤を飲ませ生き返させる以外に方法はない。

 バイシンの解毒剤は、既にナアローに試してみて、生き返ることははっきりしたが、今までは他に穏やかな方法が有ると思って、毒薬はさすがに使わないでいたのだが、事がこの様にはっきりしてきたので、他に穏やかな方法も見あたらないし、これ以上待つ必要はなくなった。

 それにつけてもバイシンが、今から二十年も前に、到底殺さなければ牢からは出す方法はないと言って、この方法を考えだしたのはさすがだと今さらのように感心し、この方法で救いだそうと決心したので、すぐに事の様子をこまごまと手紙に書いてバイシンに送ってやり、薬の調合を頼むと、バイシンからは早速返事が来た。

 承知はしたが、十何年か前に作った物は、死刑の騒ぎの時に無くしてしまい、無くしたその後は、作る機会が無かったので作っていない。今から早速作るにしても、その原料を集め、さらに何とかして薬の効き目を試さなければならないので、いよいよ鉄仮面に飲ませても大丈夫と言うまでには、更に数年かかるだろう。いよいよ出来上がったら自分で届に行くので、それまで気永に待っていてくれと言ってよこした。

 二十年も待っていたのに、まだ気永に待てとはこれから何年待ったら好いのだろう。その中に鉄仮面も牢屋の苦しみに耐えられなくなって、自然と弱って死ぬような事にでもなったら、その時になって解毒剤が有っても、何にもならなくなる。慎重になるにも程があると、バンダはかえってバイシンが落ち着きすぎているのを、恨むほどだった。

、だからと言って他に方法もなかったので、ひとまずはその言葉に従うことにしたが、それにしても今まで隠れ住んでいたチュウリンの土地は、バイシンやコフスキーと連絡し合うのにも不便なので、幸いに国王から逮捕を許すと言われていることでもあり、何処に住んでも構わなかったので、なるべく両方に便利な土地に住もうと、ブリカンベールに相談して、プロボン街道からあまり遠くない、ある教会の領内に移ったが、

 これが世に言う奇遇とでも言うのか、教会の長老は昔バンダがモーリスと結婚式を挙げた時立ち会ってくれた、あのセント・ヨハネ教会の長老ギロウドと言う人で、まだバンダの顔を覚えていたので、バンダはここを第二の故郷のようにして、ただキリストを信仰して祈り、ブリカンベールは教会の下男のように働きながら過ごす中に、いつの間にか六年もの月日が過ぎ去った。

 この時までにもまだバイシンは薬を送っては来ず、ただセント・マールスに従っているコフスキーから、秘密の便りが有るだけだった。もっともコフスキーは十年近くも辛抱した結果、ようやくセント・マールスに信用してもらえるようになり、ほとんど彼の執事(しつじ)とも言うほどの地位になったので、ときどき牢番の代わりを勤めるようになるのも、そう遠い日ではないだろう。鉄仮面の取扱もルーボアが死んで、新宰相バアベジュウになってからはいくらかゆるくなったので、その中に救出の機会もあるだろうとの知らせだった。バンダのもどかしさはどうしようもなかった。

 この様にして1698年になり、コフスキーからの知らせによると、バスチューユの所長ベスモー老人が死に鉄仮面の保監人セント・マールスがその後任につくことになったので、近い中に鉄仮面は再び彼の荷物となって、パリに送られるに違いなかった。途中はもちろん厳重な護衛があるだろうが、プロボンを過ぎてアールを通り、船でローンに着き、それからバルチウ地方に入り、センスの谷に近いセント・マールスの別荘に、一泊するに違いない。

 他の所ではどうしても救い出す見込みはないが、センスの別荘ではたぶん、セント・マールスもくつろぐはずだから、あるいは救い出せる機会が有るかも知れない。とにかく今からセンスに行き、怪しまれないように別荘の側で待ち、もし救い出せなければ、皆一緒にパリに入るにせよ、パリは我々の最後の地だと思わなければならない。

 いままで何度となく失敗している難しいことを、一夜泊まりのセンスで成し遂げられるとは、ほとんど思われないが、なにしろ見逃すのは惜しい機会なので、ブリカンベールは勇み立ち、長老ギロードにはパリに引っ越すと言って、バンダと一緒にセンスを目指して旅立った。

つづきはここから

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