巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面127

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百十七回

  
 鉄仮面が捕らわれてから26年目に当たる1698年の11月11日の午後4時過ぎセンスの谷に添った或別荘に異様な一行の旅人が着いた。総勢およそ五十人で半分は騎兵、残りは歩兵と人足だった。この一行は一人の大将の指図に従い一つの網をかけた乗り物を取り囲み非常に厳重に護衛して旅している様子だったが、そもそもこれは何の行列なのだろうか。通り道の人々は怪しく思い、あれこれと噂したがもちろん分かるはずはなかった。

 実はこれはコフスキーがバンダ、ブリカンベールに知らせてよこしたセント・マールスの都のぼりの行列だった。大将はセント・マールス自身で網をかけた乗り物には鉄仮面が乗っていた。それにしてもこの一行は別荘に着くやいなや、その網のかかった乗り物を二階の一間へ運び上げセント・マールスとその甥のホルマノー中佐と言う者が付ききりでこれを守り、その他の者は誰も二階に上がることを許さなかった。

 セント・マールスはバスチューユの所長にまで出世したうれしさに耐えられない様子で、いつもより機嫌好く庭の様子をながめながら、「見てくれ、ホルマノー、ずいぶん立派な別荘だろう。バスチューユの所長とも言われる者が官邸の他に自分の屋敷もないと言われては、外聞が悪いから、去年の暮れに買い入れたのだ。俺が年を取って死んだらこの別荘はお前の物だ。そう思ってよく鉄仮面の見張りをしなくてはならんぞ。」

 ホルマノーはうれしそうにうなづくと、セント・マールスはこれを見て「別荘ばかりではない、職務も十分勉強して新宰相バアベジウの気に入られるようにしたなら、所長の役目もお前に伝わるかも知れない。」「はい、どうかそこまで出世をしたいと思います。」

 「それにつけてもこの別荘の見張りは大丈夫か。四方へ人を配置してあるか?」「はい、士官ロサルジとコフスキーに言いつけて置きました。なお、念のためにコフスキーを呼んで見ましょう。」と言いながら中佐が立ちかけると、セント・マールスは荒々しく引き留めて、

 「さあ、さあ、それだから気を付けろと言っているのだ。馬鹿め。コフスキーをここに呼んでたまるものか。」と叱りつけると、ホルマノーは訳が分からないように首を傾け「コフスキーを呼んではいけませんか、彼は貴方のお気に入りでは、」

 「いくら気に入りでも鉄仮面の側には誰も近づけてはならん。現にお前さえ、去年の暮れまでは鉄仮面の側には寄せ付けなかった。側に寄せるとそれが慣れになってどんな事になるか分からない。お前が自分で行ってよく見て来い。砦と違って構えが厳重でない別荘だから、夜などどんな悪人が乱入しないとも限らない。そうしてコフスキーには今晩、門の所で寝ずの番をしろと言付けて来い。」
 厳重な命令にホルマノーはかしこまって降りて行った。

 後に残ったセント・マールスは立ち上がって窓の所に行き外の様子を一通りながめて、やがてあの網のかかった乗り物の所に行き、その戸をとんとんと指でたたきながら、中の鉄仮面に声をかけ、「これ、囚人、目が覚めているのか。」と聞いた。

 乗り物の中からは非常に陰気な声がして、
 「はい、今まで眠っておりましたが、」
 「今目が覚めたばかりだと言うのか。よしよし、ここは俺の別荘だ、」
 「そうですか、さぞかしご立派な事でしょう。」と答えるのさえ、自分の身の不幸を悲しむと見えて、その声が少し振るえて聞こえた。

 「なんだ、又泣くのか。」
 「ええい、泣いているのでは有りません。」
 「そうだろう、俺が出世をすればお前もうれしいはずだ。おれとお前はどちらかが死ぬまで離れられない仲だ。今の様子では何だかお前の方が先に死にそうだが、とにかく死ぬまで俺の荷物だ。しかし、喜べ、バスチューユでは重い国事犯だけは上等の部屋に入るから、お前の部屋もバスチューユ塔の一番良い所を準備してある。今までの穴蔵とは大違いだぞ。」

 「何にしても、何年もの間清い空気を吸って居りませんから」  「いや、待て待て、お前は他の罪人とは違い、まんざらの下人とは違うので、今はその様な姿をしているが、築山の善し悪しくらいは見分けることが出来だろう。折角買った別荘でも、見てくれる人が居なくてはつまらない。ちょっとお前を出して見せてやりたいな、」
 「はい、どうか拝見がかないますならば、樹の葉の色を見るだけでも生き返る心地がします。」

 「よし、見せてやろう。お前は神妙に俺の言うことを聞く、毎年一度政府に出す手紙でも、俺の言うとおりに書くから俺も幾らか可愛そうに思うよ。見せてやろう。なるたけ慈悲をかけてやると、いつか約束した言葉もあるから、それに免じてこれくらいの事はよいだろう。その代わりたったの五分だぞ。ああ、丁度日も暮れてよい時刻になった。外から見ても窓の中に立っているお前の姿は見えない。さあ、この立派な別荘を見て、何侯爵の寮に似ているとか、誰貴族の庭のようだとか誉めてくれ。」

 と言ってセント・マールスは自分の栄華を誇る余り、一目別荘の風景を拝ませる気になり、ポケットから鍵を取り出し乗り物の戸を開こうとした。中から出て来る鉄仮面、今はどんな姿になっているのだろう。

つづきはここから

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