巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面130

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百二十回

     
 ブリカンベールは簡単に塀を乗り越えたが、中の様子は十分コフスキーから聞いていたので少しも迷わずに、厩(うまや)の後ろから勝手口に行き、コフスキーから受け取っていた鍵で先ず台所の戸を開き、そっと中にはいると、裏口の方も厳重に用心していて、料理番の部屋を初めとして、その他廊下の両側にある部屋部屋にも数人の兵士を配置していた。

 幸いに皆眠っている様子なので、まさかの時にはすぐに出て来れないように、片っ端からその戸を締めて、戸には外から鍵を下ろした。「さあ、この通り閉じ込めて置けば、たとえセント・マールスが目を覚まし、大声で呼んでも、この兵士達が来るまでに、俺は鉄仮面を小脇に抱え、闇に紛れて逃げてしまうぞ」と腹の中でつぶやきながら、さらに足音を忍ばせて梯子段の見えるところまで進んで行くと、思いもかけない関所があった。

 そこには二人の兵士が剣を持ったまま立ち番していた。この両人はもちろん寝てはいなかった。まだ交代して間もないと見えて大きく目を見開いて、話もせずに見張っていたので、この者達の目をかすめて二階に上って行くことは到底出来そうもなかった。この俺様の力で締め殺すことは訳もないが、一人で二人を相手にしたら、声を立てさせない訳には行かず、その中に二階も下も目を覚まし、自分は鉄仮面に近づく事も出来ずに、逃げ去らなければならなくなってしまう。

 何とかして二人を眠らせる方法はないだろうか。それとも二人が眠るまで待って居ようかなどといろいろと思い悩んだが、無駄に時間ばかりを費やすときではないので、ブリカンベールは、はてどうしたら良いだろうと考えたが、良い考えも浮かんでこなかった。

 又一方ではこんなに広い屋敷の事だから何処かに別な階段が有るかも知れないと、また忍び足で引き返し、方々を捜したが、残念なことには他には階段は無かった。何をするにしても二人が眠るまでは二階に上ることはできない事がはっきりした。

 ブリカンベールは足踏みして自分の知恵が回らないことをくやしがったがどうしようもなかった。だからと言って永年の本望を果たさずに空しく帰ることはなおさら出来ない。とにかくもう一度コフスキーに相談しよう。彼は頭の良い人間だから、どんな考えを思い付くか分からない。ブリカンベールはコフスキーに相談しようとして又塀の外に帰り、前の様にふくろうの真似をして一声叫ぶと、今度はコフスキーがその足元に現れ、

 「どうだった。どうだった。うまくいかないのか。俺は心配で待っていたが。」と聞いた。ブリカンベールは手短に事の次第を話すと、コフスキーは別に考えもせずに、「よし、よし、俺がその二人を庭までおびき出してやる。お前は廊下のそばの部屋に隠れていて、その二人が出たと見たらすぐに二階に上がらなければいけないぞ。」

 「おお、何か良い工夫が有るのか。しかし、後でお前がそのために疑われるような事になっては、真っ先にバンダ様の言い付けに背くことになるからな。」
 「何、その心配は無い。俺は姿は見せないから、しかし、その代わり、お前が鉄仮面を連れて下におりて来るまでその二人が外に居るかどうかは分からないよ。」
 「分かった。鉄仮面をひっさらって下りて来た時ならたとえ、下に十人居ても蹴飛ばして逃げるから大丈夫だ。ただ二階に上がる前に物音を出されるのが困るだけだ。」
 「では、すぐに行こう。お前はどうしても二人に見つからないようになるだけ階段の側に行き、近くの部屋に隠れていてくれ。」

 どんな計略かは知らないが、何でもなさそうに言うのに安心し、コフスキーと一緒に庭に入り、自分は前と同じように廊下を忍んで行き、番兵の立つところから少し離れた部屋に隠れ、どの様にしてコフスキーが二人をおびき寄せるのだろうと怪しんでいると、間もなく庭のどこかから、ケンケンと狐のなく声が聞こえてきた。

 兵士の一人は耳をそばだてて、「おや、狐が鳴いているぞ。山の中だけに色々な獣がいるな。先ほどからふくろうも鳴いていたが。」と言うと、もう一人の方も「射殺してやりたいな。」
 「馬鹿を言え。夜鉄砲を撃ったらセント・マールスに叱られるよ。」言葉がまだ終わらない中に三、四声続けて聞こえて来た。

 「これは、ここで知らない顔もできないよ。何でも四匹か五匹、築山で遊んでいるようだ。ほらほら、又鳴いたじゃないか。君、ここに居てくれよ。僕は棒を持って行って殴り殺す。」
 「それじゃ、僕も行く。少しの間ここを離れても誰にも分かりはしない。」
 こう言って二人はほとんど先を争って、狐の声にだまされて、ブリカンベールの部屋の前を通って、早くも向こうの方に行ってしまった。

 ブリカンベールはほとほと感心し、「さすがにコフスキーだ。恐ろしい奴だ。ああして樹の陰であっちこっちと動き回り、しばらくの間はきゃつらを釣っていてくれるだろう。」とつぶやきながら部屋を出て行って、何の苦労もなく簡単に二階へ上がって行った。

 これで一つの関門は通れたが、この後に他の関所は無いだろうか、ブリカンベールはこんな事は考えもせずにもう鉄仮面を救いだした気持ちで、コフスキーに聞いておいた部屋を目指してそっと進んで行くと、部屋の戸は締めて有ったが、鍵穴から明りがもれているのは、きっとセント・マールスの寝室で鉄仮面もここにいるに違いない。

 先ず鍵穴に目を寄せて中の様子を伺い見ると、灯火はほとんど昼よりも明るく照らした中に、まだ寝ていない一人の士官兵がいた。これがセント・マールスの甥とか言うホルマノー中佐に違いない。彼は部屋の向こう側にある戸のそばに椅子を置き、こちらに向かって座っており、目はあたかものぞいているこちらの鍵穴をにらんでいるようだった。

 そのうえ側には剣もあり、短銃も置いて有った。私がもしこの戸を開いたら、彼はすぐにピストルを取り上げて狙い撃って来ることは間違い無い。宝の山には入ったが番人の厳しさに手を下す方法が無かった。

つづきはここから

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