巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面133

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百二十三回

 ブリカンベールは肩を射抜かれ二人の兵士と一かたまりに梯子の下に転げ落ち、しばらくの間は上になり下になりしながら組合をしていたが、やっと二人を組伏せて立ち上がる事ができたので、なおも二階に登ろうとした。なんという大胆さなのだろう。

 しかし、その意気込みも果たせず、わずかに梯子段を三、四段を飛び上がった辺りで、下にいた二人が又立ち上がって来て、両足にしがみつき、引きずったので、前に倒れて引き下ろされて、又も彼らに組伏せられてしまった。

 このような事になっては天下無双の剛勇もどうしようもなく、その上、セント・マールスもこの間に起き直り短銃を持ったまま大声で他の兵士たち達を呼びながら二階から下りて来たので、この上どの様に奮闘しようと、鉄仮面を奪い取る方法はなく、ただ彼らに捕まえられて、死に恥をさらすだけになってしまった。

 今は唯、逃げるしか方法が無いので、無念の歯を噛みしめながら再び彼らを跳ね飛ばして立ち上がり、手近の一人を捕まえて、手玉のようにセント・マールスにたたき付けた。セント・マールスが倒れるのを見て、又、飛びかかる一人も同じように二人の転がっているところに投げつけ、三人が起き上がろうとしてもがいている間に、初めに入って来た勝手口を目指して、一目散に走り去ろうとすると、「射殺せ、射殺せ」と怒り叫ぶセント・マールスの声は、追いかけて来た二人の兵士の声と同じように、自分から二メートルも離れていないところから聞こえた。

 もしこのところに、敵に数人の加勢が有れば逃げ去ることは絶対できそうもないが、幸い、初めの用心で兵士達の部屋をすべて閉ざして、鍵をかけて置いたので、彼らは慌てふためいて、「明けろ、明けろ」と言ったり、「誰が閉めた、鍵は何処だ」などと口々に叫びながら、砕けるばかりに戸を叩く音、あたかも百雷が鳴り渡ったようだった。

 中には一、二室から走りだした兵士もいたが事の様子が分からないので、ある者はブリカンベールに突き当たって跳ね飛ばされ、ある者は追って来た、セント・マールスらの足にまつわりつくなどして、共々倒れ混乱に陥る間に、ブリカンベールはようやく裏へ出て、梯子を置いて置いた塀の所へと走り寄った。

 梯子はなお元のままに置いてあったので、急いでこれに登ると、早くも足元まで追って来た兵士があった。その上それぞれが撃つ鉄砲は何発かはブリカンベールの耳をかすめて飛び去り、その危険は計り知れなかったが、幸い当たらなかったので、すぐに塀の上に立ち、既に何人かが来て梯子に手をかけるのをねじりとり、力任せに敵の群がる中に投げ捨てて、その身は頭が砕けるのも、ものともせず塀の外に飛び降りた。

 集まった兵士達は、梯子がなければ追って行くこともできないので、「さあ、裏門の戸を開け」と言うセント・マールスの声に応じて、裏門の方へ波のように押し寄せた。やがて裏門を開いたが外はセンスの谷に連なる一面の林なので、到底捕らえることができるはずもなく、セント・マールスは地団太踏んでくやしがった。

 この時遠くの塀の側にいた兵士の一人が大声で「アア、くせ者は塀から落ちてここで頭を砕いて死んでいる。」と叫んだ。セント・マールスは急いでその場に行って見ると、なるほどその言葉のように倒れているくせ者がいた。「この死骸を庭の中に引っ張って来い。」と命じて、自分は腹だたしげに舌打ちをしながら皆に先んじて中に入ったが、こんな時でも彼はまだ中に残して置いた鉄仮面が、逃げ去るのを恐れのだろうか、急いで又二階に上がり、しばらくしてから下りて来た。

 これはたぶん鉄仮面が、先ほど自分の弾にあたったのを知っていたので、先ずその傷の軽重を調べ、次にその傷も軽いとみて、再び自分の部屋に閉じ込めて置いて来たようだ。それから彼は角形のランプを持って庭に出たが、ちょうどそこに死骸を運んで来たところだったので、明りに照らして調べてみると、今のくせ者のように顔は包んでいなかったが、いかにも塀からとびおりて頭を砕いたもののようである。

 セント・マールスには探偵の様な知恵があり、その死人の肌に触れてみると、この死人は今から三十分も前にこと切れたようで既に体が冷たくなっていたので、今のくせ者ではないことも気が付くべきだったが、彼も慌てていたので、そこまで気づかず「アア、くせ者だ」と言ったが、一人もこれに逆らう者がいなかった。

 中には小声で「でも今の奴は頬被りをしていたぜ」と言い、「なに、塀から飛び降りたとき頬かぶりは風で飛んだのさ」などとつぶやきひそかに議論し合う者もいたが、ほかに死人が有ろうはずが無いので、そのまま先のくせ者と決まった。

 セント・マールスはなおもその死顔を照らしてみて、「何だ、こいつは今夜寝ずの番の一人に加えた兵卒だが」、側の一人が「左様さ、寝ずの番の一人で無ければ、とても外の者が忍び込むことはできますまい。」セント・マールスは、「こ奴があれほど強いとは思われないが、待てよ、待てよ、寝ず番の頭は誰だ、オオ、コフスキーだったな、誰か、コフスキーを呼んで来い」

 コフスキーは既に一同の中に居て、声に応じて出て来て、「いや、十二時から二時までがこ奴の番で、私は二時の交代を待っていました。が、そのうちに家の中で非常に大きな物音がしたので飛んで来ました。何しろ、寝ず番が自分でくせ者になったのだから、どうしようも有りません。それにしても家の中の寝ず番は、何をしていたのでしょう。こ奴の忍び込むのを知らないでいたとは」

 この一言にセント・マールスは、初めて二階の下に強そうな二人の兵士を立たせて置いたのを思いだし、コフスキーの取調べはそっちのけになり、早速二人を呼び問いただすと、二人はさすがに狐狩りの事は話せず、たぶん裏手の窓からよじ登ったのだろうと言うことになり、最後にはどうして入り込めたのか、分からないままになった。

 セント・マールスは非常に機嫌悪そうに二人を見つめ、「何しろ貴様らには落度がある、パリに着いたら調べるからそう思っていろ」と言い、更に皆の方を向いて「何しろこの別荘は物騒なので明朝は、早く立つ、皆そのつもりで準備しろ」と言い渡した。これでコフスキーが、少しも疑われずに済んだ事は、せめてもの幸いと言うべきだろう。
   
つづきはここから

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