巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面137

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳       

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                 第百二十七回

 この日も既に暮れ、夜の九時と思われる頃、セント・ポール寺院の裏庭に忍び込む二人の男があった。これこそブリカンベールとコフスキーだった。昼でも寂しい墓場なのに、まして遠く離れた往来にも人の気が絶えた頃なので、静かなことは例えようもなかった。「これ、ブリカンベール、静かに歩け、まだ教会の者が起きているかも知れないから、怪しまれるといけない。」

 「起きていたってかまうものか。この教会の長老はギロード師と言い、昔、秘密の箱を埋めたあのヨハネ教会にいた人で、バンダ様を我が子のようにしてくれるし、俺も教会の使用人のようにしていたんだ」「なるほどそうか、ヨハネ教会にいた人だったか、道理で何処かで見たことがあると思っていた。ああ、それで分かった、お前はさっきあの長老が、棺のそばでお祈りをしている時の顔色を見たか。」

 「おお、見たよ、何だかいつもより悲しそうに見えたから、俺は変だと思ったが。」「そうさ、あの長老は鉄仮面の死際に招かれて、身の上話を聞いたから、さてはこの不幸な囚人が昔、自分の手で婚礼させた男かと思って、色々な感情が起きたのだろう。事によると、バンダ様の夫だと気が付いたのかも知れない。」「そうだそうだ、気が付いたのに違いない、だから足音くらい、あの長老に聞かれても構わないと言うことよ。さあ、急げ」「馬鹿を言うな、どのような長老にでも、聞きつけられてはいけないよ。墓を暴いてその死骸を掘り出すと言うのだから、とがめられるのは当り前だ。」

 「でも急がないと時間が無いのだ。よいか、鉄仮面が死んだのは一昨夜の十時だよ。今夜の十時で丁度四十八時間になるのだから、早くしないと間に合わない。バイシンの送った薬は死んでから、四十八時間の中に飲ませろ有ったじゃないか。もし、時間が遅れたためその効き目がなくなって、モーリス様が生き返らなかったらどうするのか。俺はそれを思うと気にかかって、気にかかって日が暮れるのが待ち遠しくて仕方がなかった。

 バンダ様が九時まで待てと言わなければ、俺は六時頃に堀だしに来るところだった。さあ、つまらないことを心配せずに早く来い。」と言ってブリカンベールはコフスキーをせかしにせかして、石塔を踏み倒し、生け垣を飛び越える程の勢いで、辺りも構わず進んで行くのは無理もない事だった。

 やがて昼の間に見覚えておいた鉄仮面の墓に着くと、ブリカンベールは必死となって墓石を跳ね除けながら、鍬音も高く堀始めたが、実はこれは、三十年来、救おうとして救い出すことが出来なかった、我が大将アルモイス・モーリスに再会するうれしさに、我を忘れての事だった。

 もしこの死骸を堀だして、確かにモーリスに間違い無く、さらに、首尾良く生き返らせることが出来たら、実に枯木が春に芽ぶく例え通り、これに優る喜びはないので、コフスキーだとてどうして悠長にしておれようか。鍬を揃えて掘る土は先ほど埋め戻したばかりで、非常に柔らかかったので、わずか十分ばかり働く中に棺の表が現れ、それから五分間で全く掘り出すことが出来た。ブリカンベールは蓋の土を撫で落としながら、「棺のまま持って行こうか。」

 「そうだな、蓋を外して死骸だけ取りだして持って行くつもりだったが、バンダ様が待ちかねているだろう。」「それに、バンダ様より我々が先に、棺の中を見るのは事の順序が違うだろう。」「そうさ、棺のままで持って行って、小屋の中で開けて見ることにしよう。死骸さえ取り出して生き返させれば、後はどうでも良い。我々は今夜の中に、この場所を立ち去るのだから」

 とこのように言ってコフスキーが棺の片端に手をかけると、ブリカンベールは「それには及ばぬ」と言って静かに棺を取り上げて自分の肩に乗せ、主人を背負うような気持ちで、小屋の方に立ち去ると、先ほどから物陰に隠れて、二人の様子を見ていた人がいて、二人の立ち去るその後から、ひそかに付いて行ったが、二人は心ここにあらずで、それと気が付く余裕もなかった。

 このようにして小屋の戸口まで行ったが、バンダは気がかりで落ち着かなかったと見えて、立ったまま戸口にいて、「どうでした。どうでした。」と急ぎ聞くのを、コフスキーは先ずその手を取って中に入ると、ブリカンベールは棺を部屋のまん中の明りの下に置き

 「さあ、これから開きましょう」と答えた。三十年来の大目的をここに初めて成し遂げたとは言え、バンダはうれしさより恐ろしさが先に立ち、わなわなと身を震わせ、再度聞く声も出せなかった。コフスキーはその気持ちを察し、

 「我々が死骸を取り出すまで、貴女は次の部屋でお祈りをしていてください。」と言い穏やかに押しやろうとしたが、隣の部屋に行くこともできず、立っている足の力さえも抜けたように、その場にどうと伏して、顔も上げずに祈り始めた。

 コフスキーは余りの痛たわしさに再び振り返って見ることも出来ず、無言で棺の側に行き、前から準備していた釘抜などを取り出して、ブリカンベールと一緒になってそっと棺の蓋を開けようとすると、棺はもともと粗末な作りだったので、そう時間もかからずにその蓋が開いた。

 中はどうなっていると、覗いてみると、一面の白布で死骸を包んであり、気味が悪かったがまずこれを取り除くと、下から現れたその死骸は鉄の仮面を被ったまま横たわっていた。コフスキーとブリカンベールは左右から手を入れて、病人を起こすように抱き起こし、静かに外に出して椅子の上にすわらせた。

 その様子は前にペローム砦でバンダと一緒にコフスキーが盗み見たあの囚人と全く同じで、あの時この囚人がナアローの意地悪な言葉を聞いて仮面の中で叫んだものすごい声さえも昨日の事のように思い出される。

 コフスキーは既に一度バスチューユの掘りの外で、荒武者アイスネーの鉄仮面を外したことがあるので、今更苦労することもなく落ち着いてその仮面を外し始めると、バンダもようやく気持ちが治まったようで、側に立って来て、ブリカンベールと一緒に鉄仮面の顔の前の方に回って、仮面が外れるのを待っていると、コフスキーは間もなく仮面を外すことが出来た。そして良く見えるようにその死顔を明りの方に向けた。

 これ、モーリスかオービリヤか、バンダは一目見るなり、「きゃっ」とびっくりするような声を出して気絶してしまった。ブリカンベールもコフスキーも続いてその顔を覗いて見て、同じように驚いて「エ、エ」と飛び跳ねた。

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