巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面140

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳     

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                 第百三十回

 鉄仮面はアルモイス・モーリスではなく、オービリヤのフィリップだった。それにしても、オービリヤは女のように美しい顔だったのが、どうして見るも恐ろしい怪物になったのだろう。本当に理解の出来ないことで、その上他にもまだ不審なことが沢山あったので、ブリカンベールの手にすがって立ち上がったバンダは、それを聞きたい言うように長老の顔を見ると、長老もその気持ちを察したように、気持ち悪そうに眉をひそめたまま、

 「この囚人の身の上は聞くのも恐ろしい話です。彼は死に際に私に話しましたが、魔が淵で捕まるまでは美男子とも言われるほどの姿だったが、一度魔が淵で鉄砲で撃たれて死人同様になり、再びこの世に戻った時はもう見るも無惨な醜い顔となり、見る人は誰でも彼を怪物と思い、一目で逃げ去るので、彼は仕方なく黒い頭巾で顔を隠したと言うことです。」

 「ですがどうして顔の形が、あのようにくずれたのでしょう。」「それが実に可愛そうな話で、ほとんど信じられないような不思議な話です。彼は魔が淵を渡るとき皆より前の列に立っていたので、第一に鉄砲で川に射落とされ、急流に押し流されたと言います。もっとも水泳の心得は有るので、すぐに溺れることはなく、必死に泳いだれけれど、体はすでに鉄砲の弾の傷を受けていたので、思うように泳げず、およそ一時間も流れた後、やっと浅瀬の様なところにはい上がり、そろそろと川の岸にににじり寄ると、岸辺には芦などが生い茂り、その下はまるで沼田とも言うような、泥の深い所だったと言うことです。

 ややもすると足が五、六十センチも泥の中に踏み込むのを、無理に引き抜き引き抜きして五、六百メートルも進んだけれど、まだ堅いところには出ず、そのうち体は全く疲れ果てて、芦の幹に取りすがったまま倒れて、前後不覚になってしまったと言うことです。つまり魂が尽きて、その場所に気絶してしまったのでしょう。それから後のこととは本人にも記憶が無く、何時間、或いは何日そこに倒れていたのか、また誰に救われ、どこに連れて行かれたのかそれも知らず、何日か、何ヶ月かの後に初めて正気に返ったときは、真っ暗なところに寝かされていました。

 はてな、どこだろうと思い起き上がろうとすると、頭がつかえて起き上がれません。手を伸ばして探ってみると右にも左にも板があって、その板をたたいてみると箱の音がします。初めは何のことか理解できませんでしたが、よくよく考えてみると棺の中です。棺に入れられて葬られたのです。さては自分は気絶している間に死人と見間違えられて、どこかの村役場の世話になり、早くも地の底に埋められたのかと考えると、急に恐ろしくなりました。

 このままいれば箱の中の空気が無くなってしまうと同時に、自分は死ぬことになる。どうしてもこの身が地の底で、死なずにいると言うことを、外の人に知らさなければならないと思い、有る限りの声を出して助けてくれ、掘り出してくれと叫びましたが、何の足しにもなりませんでした。

 もうこのまま死を待つより他はなく、どうせ死ぬと決まったからには、自分の体が砕けるまでこの棺をたたき破ろう、行き倒れた人を埋めたことだから棺も薄ぺらな物だろうし、土も深くは埋めてないだろうと、一生懸命の力で足を縮めて下から棺のふたを踏ん張り、足を踏み伸ばすと、思ったより簡単にふただけははずれました。

 それと同時に上から土が落ちてくるかと思っていると、思いの外土も落ちなければ、足の先にさわる物も無く、ふたはそのまま棺の外に音を立てながら落ちました。このことから考えると、確かに棺へ入れられているが、まだ地の底へは埋められずにいたのだなと、たちまち心が勇み立ち、棺から外に踊りだしました。果たして、地の底では有りません。けれどもその暗いことは、棺の中と少しも代わらず、何の明かりも有りません。

 さては、穴蔵の様なところだろうか。それとも、今が真夜中で、どこも暗いのだろうかと思い、ここで再び声をだして、懸命に助けを呼びましたが、返事がないのは前と同じで、いよいよ、気味が悪くてどうしようもないので、手を伸ばしてそろりそろりと歩きながら、その辺を調べてみるとどうでしょう。左右両方に壁のように累々と、人の骨が積み重ねてあるのです。

 彼は初めて気が付いたのですが、ここは納骨堂で人の骨を葬るために昔から掘ってある穴の底だったのです。自分は行き倒れ人として、棺の中に入れられたけれど、もし引きとり人が居たらと言う用心から、本当には埋めずに棺のままで、仮に納骨堂に中に入れられていたのだと思いました。

 彼はホット安心し、納骨堂ならば何処かに入り口があるに違いないと、それからそのトンネルの様な中を端の方まで歩いて行くと果たして端は石段になっていて、上に登って出られるようになっていました。その石段を登ってみると、悲しいことには、そこには戸が付いていて、堅く閉ざしてあり、押しても引いても開きません。

 そのはずです、徒に出入りできないように外から鍵がかかっていたのです。彼はそれを見て再び絶望しました。棺は破ることが出来ましたが、納骨堂は到底破ることは出来ないので、外から助けてくれる人が居なければ、飢え死にする以外有りません。

 こうしているうちにも、誰か来ればよいのだがと彼は、石段に腰を下ろしたまま待っていましたが、一日経っても、一夜経っても来る人がありませんでした。誰も用事のないところだから、そう簡単に来る人が、いるはずもありません。一月待ったらよいか、一年待ったらよいのか、ほとんど分からなくなりました。彼は全く飢え死にを待つだけでした。」
 
 長老が話してくれた恐ろしい物語だけでなく、夜がふけ、この人が誰だかは分かった後とは言え、墓場の隣で次の部屋にはその人の死骸がある。バンダは自分の背後あたりから鬼気が襲ってくるのを感じ、次第にブリカンベールのそばに椅子を近づけて行った。

つづきはここから

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