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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面142

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百三十二回

 フィリップが怪物となってしまって、それから鉄仮面をかぶせられるまでには、きっと皆の手がかりになるような事も有るだろうと思って三人とも静かに聞いていると、長老は再び言葉をつないで、 「今考えてみるとフィリップが生き返った所は魔が淵から十六キロばかり下流に当たるトーデベル駅の近くです。彼はこの辺の地理も知らず、棒きれの杖を頼りに半日ほどさまよいましたが、ようやく川の有るところに来ることが出来ました。

 これが魔が淵の谷川とオニエル川の合流しているあたりだと思われます。身を投げて死ぬつもりでここまで来ましたが、いよいよ川のそばまで来ると誰でも決心が鈍ります。彼はいろいろ考えました。

 第一自分は政府の役人に頼まれて政府のために働き、いくらかの褒美も約束されていたばかりか、国家の秘密も知っている。この秘密を幸いに政府に売りつけて、取り立てて貰うことは出来ないだろうか。何よりも大切な手箱の有る所も知っている。だからその手箱を掘り出して政府に持って行けば必ず誉められるに違いない。

 このような方法が有るのに急いで死ぬには及ばないと、ここで思い直し、それからは乞食をしながらその手箱の有る所まで行ったそうです。行って掘り返してみると既に誰かが先回りをして掘り取った後で、彼は再び絶望しましたが、それでもなお自分を政府に売り込もうと言う心は収まらず、時の大政治家を訪ねてパリに上りました。

 ところがその大政治家が彼を買わないばかりか、かえって彼が国家の秘密を知っているのを危険だと思い、鉄の仮面を被(かぶ)せてピネロルへ送ったそうです。と非常に長い話をここまで聞き、なるほど、怪物の詳細だけは分かったが、一同はほとんど失望の思いに耐えきれなかった。フィリップはこの通りだとしても、肝腎のアルモイス・モーリスはどうなってしまったのだろう。

 バンダが自分の夫だと思い、ブリカンベール、コフスキーが自分の主人だと思って、今が今まで苦労をしていた本当の鉄仮面はどうしたのだろう。あるいは、その本当の鉄仮面がすなわちこのオービリヤで、ペロームの砦で見たのもこの鉄仮面だったのだろうか。

 このように考え、バンダはほとんど決心が付かず、ただ思い迷っていたが、一人コフスキーだけは落ち着き払って前後を考え、「何処でどう間違ったか知りませんが、何しろこのオービリヤが最初からの鉄仮面では有りません。」と言う。

 ブリカンベールも同じ考えからか、「そうだ、俺は初めからのことは詳しくは知らないが、後でおまえから聞いたこと事などを考え合わすと、どうしてもこの怪物は初めから、俺達がねらっている鉄仮面とは違うような気がする。」バンダも少し事情が分かってきたようで、「そうだね、そうでも思わなければ、色々つじつまの合わないことがある。」とつぶやいた。

 コフスキーは叉考え、「どうしても違っています。第一私とバンダ様が、初めてペロームの砦で鉄仮面を盗み見たのは、魔が淵の翌日でしょう。」「そうですそうです」「その時にはこの怪物オービリヤは、ペロームの砦には捕らえられていないのです。芦の中で泥まみれになって倒れていたのです。そうして見ればあの鉄仮面は、このオービリヤでは無いことは確かです。オービリヤでなければ誰でしょう。絶対モーリス様です。」

 「そうとも」「魔が淵で2人の大将のうち一人は死に、一人は捕まったと、私が砦の軍曹から聞きましたが、オービリヤはその時死んだと思われた方で、モーリス様が捕まった一人です。」事実はハッキリしたが、バンダはますます分からなくなり、

 「それではそのモーリスは、どうしてしまったのだろう。」、「お待ちなさいよ。あの鉄仮面はそれからパリに送られるまで、私が一日も目を離さずにいましたから、バスチューユに入れられたのもモーリス様です。

 バスチューュから、ピネロルへ送られると言うことを別当のアリーが、ナアローから聞いたときの鉄仮面も、モーリス様です。その時もまだオービリヤは、怪物の姿で黒頭巾をかぶって、パリに居たのですから。」と順を追い、理詰めで解き明かすその言葉に、少しも間違いがあるはずが無い。

 「そうです、そうです、私がピネロルの砦に住み込み、ねらっていた鉄仮面も、やはりモーリスです。モーリスが何時の間に消えてしまい、このオービリヤと変わったのだろう。モーリスはそれからどうされて、今どこに居るのだろう。ああ、分かった、牢の中で死んでしまったに違いない。死んで砦の穴の中に葬られてしまったのだ。」

 いつの間にか牢死して、人知れず葬られたのでなければ、モーリスが消えて、オービリヤが生きながらえているはずがない。
 バンダはこのように思いこみ、青い顔をますます青くして、ほとんど話す言葉も無かった。

 コフスキーもブリカンベールも、その推量の的を得ていることを考えて、確かにその通りだと思ったが、バンダの悲しみを察して、口にはその通りだと言うことができず、ただ自分の顔色の心配げなのを、気付かれまいとして、無言で頭をたれてしばらく静かにしていると、長老は考えながら、

 「いや、この他にフィリップが私に話したことがあります。ことによると、これが貴方がたに参考になるかも知れません」と叉話し出そうとする事はどんな話だろう。  

つづきはここから

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