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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面143

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百三十三回

 鉄仮面、鉄仮面は絶対アルモイス・モーリスであるが、何時の間にかこのオービリヤと入れ替わっていた。何時、何処で入れ替わったのだろうか。長老がもしこれを知らないなら誰がこれを知っているだろう。 
 コフスキーは首を伸ばして「長老様、何か心当たりが有りますか。」長老は自信なげに考えながら「心当たりと言うほどではありませんが、フィリップが何かそのようなことを言っていました。」

 「何と言っていましたか、何と、え、何と」「ピネロルの砦にいたとき、自分は黒鳥とあだ名されていたが、他にもう一人、白鳥とあだ名されている罪人がいたと」「ああ、有りました、二人とも鉄の仮面をかぶせられて居たかは分かりませんが、何でもセント・マールスが私の部屋に来ても、白鳥は大人しいとか、黒鳥は元気だとかそんなことを時々言っていました。」

 「ところが、フィリップの話によるとその白鳥と言うのも、鉄仮面を被せられて居たようで、牢番がフィリップを叱るとき、鉄仮面を被っているのはお前だけではない、俺の預かっている白鳥も、同じように面を被せているが、お前のように泣き言は言わぬ。貴様もおとなしくしろと言ったそうです。私はそれを聞いて、さてはフィリップの他にも、同じ様な不幸な人間が居たのかと驚きました。それで、白鳥黒鳥の事を良く聞きました。」

 そうすると、この白鳥と言う鉄仮面こそ、バンダの夫モーリスに違いない。「それから白鳥はどうしたと言いましたか。」「牢番がフィリップに話すには、その白鳥はピネロルで死んだと言うことです。」「ヒエー、あのモーリスがピネロルで死にましたか。」とバンダは叫んで長老の手にすがった。

 ブリカンベールもコフスキーも、口にこそ出さなかったが、失望の顔をしていた。長老はバンダの背をさすりながら、「しかし、これには少し疑問の点があります。フィリップの話を聞くと、牢獄所長のセント・マールスは黒鳥のフィリップより、その白鳥を大切な囚人と考えていたようで、白鳥が死んだとき、フィリップに向かい、朝廷に白鳥が死んだと言っては都合が悪いので、黒鳥が死んだと報告して、お前を白鳥と見せかける。今日からは白鳥のつもりで居ろと言いつけたそうです。」

 さてはモーリスが死んでも、モーリスは大事な囚人だから、朝廷へはまだ生きているように見せかけ、白鳥と黒鳥をすり替えたものと思われる。だからこそ、ここの皆も人違いに気が付かず、オービリヤの鉄仮面を、初めの鉄仮面とばかり思って、今日まで付きまとってきたのだ。「ああ、セント・マールスという奴は、それくらいのことはしかねない。」「そう分かっても、モーリス様が死んでしまった後では仕方がない。」

 本当にモーリスが死んだと分かったなら、これからは誰のために身を尽くしたらよいのか。バンダもがっくり首を垂れ、「もう、私もモーリスの後を追って、この世を去るだけです。」とつぶやいた。

 「フィリップは、死に際に何もかも私に懺悔しましたが、その時彼は、セント・マールスのやり方が憎いと思い、そのすり替えのことは断固断ったそうですが、セント・マールスは色々彼をなだめて、これを承知すれば、牢内での待遇を良くし、苦しみをなるべくゆるめてやると言いました。彼はその言葉に考え直し、セント・マールスに逆らって、この上ひどく扱われてはたまらないと思い、ついにはその言葉に、従ったという事です。」

 なるほどこれでセント・マールスが、その後ますます用心深くなった訳も分かりました。彼はピネロルからエクジールに移るときは、夜の間に囚人を連れて行き、エクジヘルからマーガレット島に移る時も、自分で鉄仮面の乗り物のそばに寝て、ちょっとの間も鉄仮面のそばから離れなかった。これはまったく自分の心にやましいことがあり、もしも黒鳥を白鳥に見せかけていることが、分かったら大変だという思いからです。

 「それからは年に一度づつ政府に当てて出す手紙もセント・マールスが白鳥の文章を作り、黒鳥には出させなかったそうです。それにいろいろな取り扱いも手厚くなり、少し風邪を引いてもすぐ薬をくれるようになったそうです。しかし、セント・マールスは万が一の発覚を恐れたのか、その時まで黒鳥は二階にいたのを、穴蔵の底に移し、外面だけは一層厳重にしたと言うことです。」

 コフスキーは穴蔵の底と言う一言に耳をそばだて、「へいー、その時から穴蔵の底に移したのですか。それは変です。一体何時のことでしょう。」「何でもそれから間もなく、セント・マールスがエクジールに移されたから、1681年の春の末と言いました。」

 コフスキーはますます怪しいというように、眉をひそめ、「はてな、八十一年の春の末、それではブリカンベールがアリーに救われたときと同じ時だ。なあ、ブリカンベール」「そうだそうだ」「お前はこれは怪しいと思わないかい。」

 「何を」、「いやさ、お前が救われたのと、白鳥が死んだのが同じころだと言うことをさ」「そうだな、別に怪しいようには見えないが」、「いや、待てよ、俺がその後ですぐ番兵をだまして聞いたことによれば、ブリカンベールが逃げたために、鉄仮面は穴倉に移されたと言うことだった。

 その穴倉に移されたのは、白鳥ではなく黒鳥のオービリヤだよ。」、「そうだろう」、「そうしてみると、はて、ますます変だ」、コフスキーはあたかも良い猟犬が、初めて獣の足跡をかぎつけたように勇み立ち、

 「もし、長老様、貴方はたった今、これにも少し疑問があるように言っていましたが、その疑問とは何ですか。もしや、白鳥の死んだ事についての疑問ではありませんか」と急いで問いただしたのは一体どのような考えからだろうか。

つづきはここから

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