巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面144

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百三十四回

     
 白鳥のモーリスが、既に死んでしまったとすると、何もかもこれまでだ。何の望もないし目的もない。一同はほとんど海も山も一度に破壊してしまったように、がっかりしたが、ただ白鳥の死んだことに疑問の点があると言う、長老の頼りない言葉に、はかなくも少しの望をつないで、あたかも大海で難破し死ぬ以外に方法がない水夫達が、水平線に黒い物があるのを見つけ、これが船か雲かハッキリするまで、しばらく命をつないでいるように、更に長老の話を終わりまで聞こうとした。

 「黒鳥フィリップの言葉では、その白鳥が死んだという前夜に、何でも牢獄から逃げた囚人が居たそうです。」これだけの言葉にコフスキーは「さては」と言わんばかりにその目を光らせた。「黒鳥は、夜寝られないので、一時二時頃まで目を覚ましていたところ、何時ころだか窓の外に、異様な物音がしました。普段は非常に静かな所なので、少しの物音にも不思議に思い、窓のそばに身を寄せて聞いていると、何か上の三階の部屋の窓を、鋸で引いているようだったと言います。」

 ブリカンベールは頭を上げて、「それは長老さん私ですよ。私の居る部屋をアリーという者が、外から破っていたのです。」長老は少し驚いて「おお、そうだったのか、それでは愚老が話すまでもなく、お前さんが良く知っているはずですね。」「はい、その時のことなら大体知っています。なあ、コフスキー」と振り向くとコフスキーは頭を傾け、「いや、分かっているのは上辺だけだ。それから長老様、その翌日セント・マールスが黒鳥に、白鳥が死んだことを話したのですか。」

 「そうそう」、「それではその後のことを伺いましょう。」と言いながらバンダの方を見返ると、バンダも同じ気持ちらしく、「それからどうしました。」「いや、つまりあなた方の知っている事だけかも知れませんが、先ず私が黒鳥から聞いたことだけをを話してみましょう。それからしばらくすると、誰だか縄梯子を伝って塀の上におり、それから叉塀の外におりたようだったと言います。」「ああ、それはこのブリカンベールです。

 「或いはそうかも知れません。もっとも、縄梯子と言うのも、黒鳥の窓の前にたれていた訳ではなく、黒鳥の部屋からもう一室先の部屋のあたりに、垂れていたくらいの様子だったから、黒鳥はそれを見たわけではありません。ただ、縄梯子ででもおりているのだろうと思われるように、人の体が時々壁に当たり、また近くなるに従って、息が切れるような声も聞こえたので、それで推量できたと言うことです。」「ああ、いよいよそれは私です。長く牢にいたので縄梯子をおりる間に、非常に息が切れました。」

 「これで、実際牢破りがあったと知り、黒鳥はうらやましくなり、自分もどうにかして逃げられないだろうかと、なお窓の所から去らずにいると、叉も上から同じその縄を伝って、おりてきた者が居たと言うことです。」

 ここまで聞いてきて、コフスキーは全く納得が行きました。黒鳥はこのように二人まで、縄梯子を伝って来たのを見て、白鳥が逃げたと思い、そのため白鳥が死んだことに疑いがあると、長老に話したのだろう。

 二度目に伝い降りたのはすなわち勇士アリーで白鳥で無いことは明白なので、コフスキーは今まで、もしやと白鳥のモーリスが逃げでもしたかと、それを頼りに聞いていたが、願いは全く黒鳥の思い違いから出てきた間違いと知り、頼みの綱が切れた思いがして、再び元の絶望に逆戻りをした。゜

 「ええ、長老様、それで白鳥が死んだのが、疑問だと言われるのですか。それからその二度目に降りて来た男はセント・マールスに見つけられ、再び縄梯子を登って鉄砲の弾をさけるため空中で前後にぶらぶら振ってブランコをしていたが、とうとう射落とされて、死んだと言うのでしょう。」「そうです。その通り話しました。」「駄目だ、駄目だ、それは白鳥ではなく、我らが仲間のアリーという者です。」とほとんど泣くばかりの声で、恨めしそうに言うのも無理はない。

 しかし長老は更に落ち着き、「ですが、そのものが射殺される前にまだ疑わしいことが会ったのです。」「え、まだ一つとは」「いや、もう一つ窓を破ったと言うのです。」「や、や、それはどういうことですか。」「えい、黒鳥の話では二度目に降りてきた男は、塀の外には降りずに途中で止まって、今度は叉二階の窓を破り始めたというのです。」

 二階の窓とは今まで聞いたことがない秘密だった。アリーが三階の窓を破りブリカンベールを救ったことは何度も話したことだが、そこから降りて射落とされるまでに、二階の窓を破っていたとは実のところ思ってもいなかった。

 「二階の窓とは誰の窓ですか。」「何でも黒鳥の部屋から、一部屋置いた隣に当たる所で、前に破った三階の部屋の真下に当たるところです。縄梯子が一直線に下がるところのように見えたと言うことです。」バンダはここまで聞いて耐えかねたように、

 「ああ、そこです、そこです、その窓が本当のモーリスが射た部屋の窓です。何でも、塔の上からブリカンベールの窓へ縄を垂らすとすれば、その縄がまっすぐにモーリスの部屋の前に下がるから、ブリカンベールとモーリスを、一度に救うのはわけもないと、アリーは前日に私にもバイシンにも話しました。

 そうです。そうです。塔の上から下がり降り第一にブリカンベールの窓を破り、次に鉄仮面の窓を破れとバイシンが、アリーに指示していました。アリーはその指示どおり鉄仮面の窓を破ったのです。」一同はこれを聞いて手に汗を握った。

 今まで、地平線に現れた黒雲かと思っていた物が、どうやら助け船のようだ。「それから窓の中の人を救い出したと言いましたか。」「いや、お待ちなさい、それから窓を破り終わって、部屋の中に入ったようだったが、しばらくするとその男と囚人と思われる二人が窓の所に出てきて、しきりにひそひそ相談を始めたそうです。詳しくは聞こえなかったが、黒鳥もそれが聞きたい一心で、非常に耳を澄ませたので、大体の意味は分かったと言うことです。」

 バンダもコフスキーも同時に「その意味はどんなことですか。何を相談していたのですか。」と問いつめた。

つづきはここから

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