巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面146

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳     

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                 第百三十六回

   
 白鳥と呼ばれた囚人が、即ち最初からの鉄仮面で、バンダの夫モーリスであることは、もはや疑う余地が無く、そのモーリスがピネロルで牢から出て、黒鳥のオービリヤがその身代りになって、今まで捕らえられていたことも、又疑いもなくはっきりしてきた。

 それにしてもモーリスは、ピネロルの牢を出てその後、どうしたのだろう。縄梯子を下りることさえ出来ないくらい、衰弱していたとすれば、すぐに又捕まってしまったとの疑いも、ないわけではないが、あの時の事を考えると、たぶん捕まってはいないと思われる。アリーが空中で射落とされたときは、モーリスは既にピネロル砦の掘の橋を渡り、市中に出た後だったのだ。

 又、監獄所長セント・マールスが、白鳥モーリスが逃げ去ったのに気が付いたのは、きっと翌朝、牢を見回りに行った時にちがいないのだ。モーリスが再び捕まえられなかったからこそ、今まで黒鳥オービリヤが、ただ一人セント・マールスの荷物となって、セント・マールスの行く先々へ護送され、バンダを初め皆に、モーリスに違いないと、思われていたのだ。

 考えてみると、モーリスはアリーから、バンダが町外れにいることを聞き、ブリカンベールと同じように懸命にその方角に走り去ったが、バンダの居るところを捜すことが出来ないでいるうち、砦から追っ手が来たので、バンダ、ブリカンベールも逃げ去ってしまい、行方が分からなくなったので、こうなっては仕方がないと見て、モーリスは何処かに身を隠したに違いない。

 身を隠した後はどうしたのだろう。ただ一人でバンダの行方を捜しながら死んでしまったのか、今もなお生きていて、何処かに隠れているのだろうか。一同はただあれこれ考えてはみたが、特にこれと言って良い考えは、浮かばなかった。

 長老ギロード師は、この様子を見て、「いや、私は黒鳥フィリップの死際に、彼と差向いになって、細々と彼の話を聞きましたが、実はその時から、もしかして貴方達は、彼をモーリス殿と間違えて、付け回しているのではないかと、思いました。

 貴方がたが誰にも秘密にしている仕事を、私からもしこうではないかなどと、聞くわけにもいかず、ただそれとなく気を付けている中、貴方がたが彼の墓を暴きましたので、今はいよいよ私が出る番だと思い、間違いが起こったいきさつを話し、貴方がたの迷いを覚まさせるために来たのです。」

 「これから後は、私の知るところではなく、貴方がたの仕事ですから、ご相談の上どのようにでも、なされると良いと思います。ただ貴方がたは、夜が明けない中に、棺を元の所に納める必要があります。そうしないと、この事が外にもれて、どんな事になるか分かりません。」と言い、

 更に又、「貴方がたはきっと、オービリヤと言う彼の死骸を、まだ憎いと思っているかも知れませんが、もう憎む必要は有りません。彼も死際には十分後悔していました。」

 「彼はセントマールスの別荘で、コフスキー殿を見たときから、さてはモーリスの残党がまだ生き残っていて、自分を付け狙っているのだなと、悟ったそうです。今度又コフスキー殿が、これを飲めば助かると言って、毒薬を渡したときも、彼はすぐにこれは毒薬だと、気づいたそうです。もちろん、貴方達が解毒剤を使って、彼を生き返らせるつもりで、救うのだとは夢にも思わず、ただ、自分を憎み自分の命を取るためだ、とは思ったそうですが。」

 「彼は既にこの世に飽き、死んだ方がはるかに増しだと、以前から考えていた事と、もう一つは、又、自分が苦しむのも、昔勇者を欺いた罰と考え、自分から仇を返される覚悟をしていたので、毒薬を自分の罪滅ぼしに飲んだのです。この事を考えると彼の罪はもう消えました。この上更に恨むことも無いでしょうから、死骸だけは元の場所に葬ってやるのが良いでしょう。」と言う。

 なるほど、その通りだ。彼は既に毒薬で死んだ上、その罪まで悔やんでいたと言うならば、その死骸に仇討をすることは、志士のすることではない。バンダは潔くこれを受け入れて、更に長老の慈悲に感謝すると、長老は十分満足して立ち去った。その後ブリカンベールとコフスキーは、再び怪物を棺に納めて元の墓場に葬ったが、これらの事をやり遂げて、バンダの小屋に戻った時は、すっかり夜も明けた後だった。

 それで三人は又これからの相談を始めたが、モーリスがピネロルから逃げて、今もこの世に生存しているとしても、その住んでいるところを知ることは、雲をつかむような難しいことだ。しかし今まで多くの苦労をしてきた三人なので、どうしてこのままで、終わりに出来ようか。

 モーリスの身になって考えてみると、彼は事によるとコンド、チュウリン両公爵を頼りに、パリに来たのではと言う疑いもあるが、パリに入るのは非常に危険なだけでなく、昔から万一にも両公爵に、その筋の疑いがかかってはいけない、と言って通信もしないほどであったから、パリに来るはずはなかった。

 それならば、彼はブルセル府に行ったかとも思われるが、ブルセル府に入るほどなら、セント・ヨハネ教会に入り、長老ギロード師を訪ねるか、そうではなくても、昔同所で我らが党の世話をしてくれた人も、まだ同所に何人もいるので、その人たちの所を訪ねたはずで、そうすればその事は今まで三人に知れるはずである。パリでもなくブルセル府でもなければ、彼はあるいは一カ所に所を定めず、バンダの行方を捜がしているのだろうか。

 二十年の間、妻の行方だけを捜して、放浪して居るとも思えない。ただ彼が安全に居られるのは、オリンプ夫人と同じオーストリーかも知れない。同国には我らが党の盟主とした、ライソラ伯爵もまだ健在なので、ここを訪ねて行ったかも知れない。色々推量した後、どちらにしろ、パルマ国はオーストリーへ行く途中なので、先ずパルマ国まで行き、バイシンの知恵を借りるのが一番だと相談して決まり、この翌日三人で、パルマ国を目指して出発したが、その結果はどうなるだろう。

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