巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面147

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百三十七回

  
 三人はパリを出発して三日目の昼過ぎに、セボロー駅に着いた。ここは国境から三里くらい離れたところなので、コフスキーもブリカンベールも、今夜のうちに国境の関所を越えるつもりなのだが、可愛そうに、バンダは、一人うち続く苦労に、体も非常に疲れ果て、もう一歩進めなくなった。どうしてもこの宿場に一夜を明かし、明朝出発しようと言う。

 日頃どの様に苦しくても、耐えられるだけ耐え忍ぶバンダが、ここまで言うのはよくよくの事なのだと思い、二人はその希望に従うため、宿屋を捜していると、町の片隅に、大勢の少年達が集まり、「オーストリーの貴夫人を、殺してしまえ。殺してしまえ。」と口々にはやし立て、あるいは棒の様なものを振り上げ、あるいは石を拾って投げつけるなどして、大いに騒いでいるのを見た。

 何気なくブリカンベールは、群衆の中をのぞくと、その老婆、身なりは卑しくも見えなかったが、その着物の裾に、猫の子の死骸を縛り付け前の方には、破れ靴をぶら下げるなどしていた。これはすべて子ども達が、老婆を恥ずかしめるためにした事と、見受けられた。

 中には数人の大人もいたが、このような子ども達の悪ふざけを止めようともせず、かえって子ども達に加わって、「叩け、叩け」と言い、或は「貴夫人の顔に唾をかけろ」など一緒になって老婆を苦しめていた。老婆が非常に腹だたしげに、口のはしに泡を吹きながら、無礼者らを叱り懲らしめようとするが、その声は群衆の騒ぎにかき消されて何の効果も無く、かえって益々四方から集まって来る人の数を増やすだけだった。

 この様子を捨てて置けば、老婆はこれから数時間の後にはなぶり殺しにされてしまうだろう。
 何のために、このようにいたぶられているのかは、分からないが、強きをくじき弱きを助けるブリカンベールの男気は、黙ってこの様子を見過ごすことが出来ず、コフスキーとバンダを、群衆の外に待たせておき、

 「さあ、おまえ達は何で一人の老夫人を、そのようにいじめるのだ。夫人の代わりに、俺が相手になってやる。」と言いながら割って入り、夫人の前に立ちふさがりながら群衆の中の一番丈夫そうな大人を三、四人一緒に捕らえ、犬ころを扱うように向こうの方に突き飛ばすと、誰一人この剣幕に恐れぬ者はなく、特に怒りを帯びたブリカンベールの面だましいは、鬼をも取り押さえるばかりなので「怪我をしない中にそれ逃げろ」と我がちに囲みをくずし、蜘蛛の子を散らすように逃げ去って、一人もいなくなった。

 「見かけによらず弱い奴らだ」笑いながら老夫人を助け起こし、前後につけた様々な見苦しいものを取り捨てて、その着物の塵を払ってやると、怒りのおさまらない老夫人は、この親切を感謝しようともせず、ブリカンベールの顔を見つめるばかりだったが、やがて驚いた調子で「やや、ブリカンベール」と声高く叫び、更に辺りを見回して「おや、バンダも、コフスキーも」と声を続けた。

 この声にバンダとコフスキーもそのそばに走りよって、老夫人の顔を見ると、ほとんど誰だか見分けられなかった。ブリカンベールは最初に気づき「貴方はオリンプ夫人ですか。」と言う。実にこの人はオリンプ夫人だった。顔に刻まれたしわの数は、全く昔の面影を隠していたが、その流し目がルイ王を奴隷のようにもてあそんだ目だけは、なお異様な光を残していた。

 この夫人がどうしてここに居て、何のために群衆に辱めを受けていたのか。憐れむべき美人のなれの果てに、バンダは涙を流しながらその手を取り、「貴方はオーストリーにいらっしゃるとばかり思っていました。どうしてまあこんな所に」と聞く。

 オリンプ夫人はあたかも狂人が物を言うような声で、「鉄仮面を救うため、再びフランスに入りこんで、これからパリに行くところです。」「え、鉄仮面を」「はい、鉄仮面を、お前達は知っているのか、知らないのか分からないがあの鉄仮面はフィリップです。フィリップです。最近フィリップだと言うことが、分かったので再び救ってみるつもりで、先々日オーストリーを出発して、ここまで来ましたが、ここの宿で病気になり」と言いかけて又話題を変え、

 「今はルーボアも死んでしまい、次に総理大臣となったバーベジウも同じく死に、ケミラーが総理大臣になっているから、私から頼めば、鉄仮面を許してくれるだろうと思います。それに国王ルイだってもう昔の罪を忘れ、私の願いを聞くだろうと思い、はい、国王と総理大臣の前に出て、嘆願するつもりで来ました。」

 さすがに我がままをもって、フランスに並ぶ者がいないと言われた夫人だけに、今もこのような考えが、浮かび上がって来るのだろうと、一同が思う間もなく「私も七十に近い年になりこの世がもう嫌になりました。オーストリーにいても息子にまで意見され、生きている甲斐もなくなりました。どうせ死ぬなら、昔からただ一人本当に私を愛してくれた、あのフィリップを救いだして、せめて彼と一緒に死にたいと思っています。」

 「はい、これから彼を救いだします。彼です。彼ですよ、鉄仮面の囚人は、お前達が、オービリヤと名前を付けて悪く言う彼ですよ。バンダの夫の、モーリスでは無いことが分かりました。」

 今もなお、昔に変わらない気ままな性格は見えるが、とにかく鉄仮面が、アルモイス・モーリスではないと言うことは、本当に事実に合致するので、バンダは夫人がどうして、この事が分かったのかを疑問に思い、

 「私の夫モーリスでは無いと、どうして分かったのですか。」  「どうしててでもない。モーリス殿はまだ生きてこの世にいます。はい、モーリス殿の元気な姿を見たから、それで鉄仮面がモーリス殿でなく、フィリップだと言うことが分かりました。」
 
 夫人がモーリスの姿を見たとは本当に意外なことだったが、何しろ一同の身に取っては、驚くべき吉報なので、一同は腹の底からうれしさが、こみ上げて来るのを感じた。

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