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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面43

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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           第三十四回

 バンダ嬢ただ一人で第一番に、鉄仮面の本体を探り出すとは理解が出来ない事なので、コフスキーはバイシンに迫って「それはどの様な方法ですか。」と聞く。「いや、別に工夫と言うほどではないが、バンダ嬢一人でこれからすぐブリュッセルに引き返し、あの秘密の手箱を取り出して焼き捨てるのです。」

 「ことが破れた今となってはあの手箱が何より気がかりです。少しもそのままにして置くことはできません。ことによると、もうすでにルーボアの手へ渡り、隠し場所に無いかも知れませんが、無いならば無いで又鉄仮面が誰かが分かるでしょう。今の所で手箱の有る所を知っているのはヒリップだけです。ヒリップがルーボアに言っていなければ、手箱は元のまま有るはずです。」
 
 コフスキーは感心して「なるほど、手箱が紛失していれば鉄仮面はオービリヤに違い有りません。」バンダも又側から「そうです。そうです。モーリスならば鉄仮面をかぶせることなど無駄なことです。たとえ、火水の責めを受けても手箱の在処など、言わないばかりか同志の名はおくびにも出しません。手箱がそのまま有るなら鉄仮面はモーリスです。」

 バイシンは話を続けて、「ですから、手箱の有る無しを見極めるのが一番の近道と言うものです。この他にはどんな方法もないと思います。この役目はどうしてもバンダ嬢でしょう。」バンダは十分に承知の様子だったが、コフスキーはただ心配気に「ああ、バンダ様をただ一人でお立たせ申すのはまことに心配なような気がします。」と言いかけるのをバンダは打ち消し「今となっては、私の身に何の心配なことが有ろうか。田舎娘に姿を変えれば誰も怪しむ者はいない。」

 「守備隊にさえ一人忍び込んだ事を思えば、手箱を取り出して、焼き捨てる事などは何でもない事。お前は私の事を気に留めず、安心して自分の受持ちに精を出すがよい。」「はい、私とても受持ちの役目が有りますので、お供をすることも出来ません。この様なときにブリカンベールがいてくれれば、貴方の身が無事ですのに、彼はまあ、何処へ行ってしまったのでしょう。」と、言っても仕方無いことを繰り返すのも、バンダを気ずかう真心からなのだ。

 オリンプ夫人はここまで聞くと「おや、まあ、私をパリまで送ってくれたあのブリカンベールが」「はい、彼は貴方を送って行ったままで、今もって帰っておりません。お目にかかったらお聞きしようと思っておりました。貴方は何処で分かれました?」「私をパリの屋敷まで送り届け、すぐにその翌朝ブリュッセルの事が気になると言って出発したが、それっきりで帰らぬとは、もしや途中で。」

 「やはり、殺されたかどうかしたのだろうと思われます」「いや、彼の事ですから、まさか殺されもしますまい。捕らわれてでもいるのでしょうから、運さえ有れば又巡り会う事もあるでしょう。どちらにしましても、バンダ様のお役目は随分と大変な仕事ですから、私にはただそれが気がかりで。」

 「何も大変なことはない。そんなに心配しなくても大丈夫、ブリカンベールの事だって、今言ってもどうにもならないこと。さあ、こう言う中にも時間が経つ、私は今夜のうちにブリュッセルに出発しましょう。」と早くも立ち上がり、一同を席立てるようにするのは、日頃にも優る勇ましさで、これがか弱いバンダかと思われるほどだったが、これも全く夫の生死を気づかい、一刻も早くはっきりしたことを探りたいと思う気持からなのだ。
 
 バイシンは又バンダを引き留め、「いや、貴方がそこまでのご決心なら、この役目はうまく行くに決まっております。それを今からあれこれと難しそうに言って、貴方の心を鈍らせるようで済みませんが、コフスキー殿の言うとおり随分女一人の手には余る大役ですから、そのおつもりで行かなければなりません。と申しますのは他でもないですが、幸い、その手箱が無事であったにしても、それを取り出して焼き捨てるだけでは役目が終わりません。」

 「今はもう手箱よりも鉄仮面を判断するのが目的ですから、貴方はそれを焼き捨てた後で、まだ後一ヶ月はその近辺に逗留(とうりゅう)して様子を見張っていなくてはなりません。」「それは又、どうした訳で」「いえ、事によるとルーボアからの使者が貴方より後になるかも知れません。ですから、手箱がある無しだけを見ただけではまだ分かりません。その後で使者らしい者がその手箱を捜しに来るか来ないかを見定めなければなりません。」

 コフスキーは側から「なるほど、そうだ、手箱が有ったからと言って、すぐ鉄仮面をモーリス様だとは言えません。しばらくその地で見張っていて、全くルーボアから取りに来ないかどうかを突き止めなければなりません、ああ、これはいよいよ、私が付いて行かなければ。」「お前が付いて行って、その後でもし肝心の鉄仮面が何処かに流され、行方が知れなくなってしまったらどうするつもり。手箱の役目は私一人で十分です。」
 
 こう言われてはほとんど何も言えなかったが、それでも心配なので「ですが、もし貴方よりルーボアの使いが先に行き、手箱を取り出しただけでなく、その上、誰か我々の同類が来ないかとその使者が見張っていたらどうします。」「見張っているようならば、それこそ鉄仮面がオービリヤと分かるから、私はすぐに立ち去ります」 
 バイシンが「それに、なに、ルーボアはもう同勢が皆ごろしになったものと思っているから、後まで見張りを付けて置くことは有りますまい。」とコフスキーが心配するのを退けたので、彼もこれ以上言う言葉もなかった。
 この時オリンプ夫人はバイシンに向かって「これで一同の役目は決まったが、お前は何の役にあたる。」

 「はい、私は皆様の通信取り次ぎに当たります。皆様が別々に離れてしまえば、何時何処に泊まっているか分かりませんので、それでは困ることが有るでしょう。それで、私の家を根城と定め、行く先々からその都度知らせて下されば、何もかも分かります。私の家は上下貴賎の別なく、多くの人たちが出入りしますので、手紙が来ても、又、貴方がた自身が来ても、人に怪しまれることもなく、永く潜んでおられます。バンダ嬢もコフスキーさんも役目が済んだら、皆パリの私の所に引き上げなさい。」

 と言い、紙切れにその住所を記し、バンダとコフスキーに渡した。これで打ち合せは全く済んで、別れ別れに四方へ散って行った。

第34回終り

つづき第35回はここから

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