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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面58

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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             第四十九回

 今現れた鉄仮面も前の鉄仮面と同じく、囚人用の服も仮面も同じなので、どちらがどちらなのか見分けることが出来なかった。ベスモー所長はルウ、ブウの二人を呼び「さあ、今度はお前達の番だ」と言う。二人は呼ばれて前に進み、鉄仮面の手を取って左右から引き立てたが、今度の者は前の鉄仮面より背も高く、体も丈夫そうだった。

 彼がもしあるぎりの力をふるって暴れ回ったら、二人の手には負えないだろうと思われたが、彼はもう運が尽きたと諦めたように、二人の為すがままになり、あたかも小児の様だった。ただ、引
かれるままに従って行った。

 ルウとブウは歩きながら所長の様子をちらっと見ると、彼はいつものように戸の所に立ち、鉄仮面の後ろ姿を見送っていて、立ち去る様子もなかった。しかし、数歩でもう説教堂に入り、二階の階段にさしかかると、他に人目もなく誰にも気兼ねすることもなくなったので、上の廊下に出ると同時に、ルウは先ほど相談した通り、どちらの鉄仮面かを試すために、その耳元に口を寄せて、「オリンプがこれをよこしました。」とささやいた。

 仮面は耳まで包んであったが、時々ルーボアの取調べを受けるため、声だけは聞こえるように穴が開けて有ったので、このささやきは十分に彼に聞こえたと思われる。彼は意外の事に驚き、足を止めたが別に不審に思い戸惑う様子もなかった。同じく小声で「何、オリンプ、あの夫人か。」と言い、更に又「よし、何の品だ。」と聞く。

 ルウは高鳴る自分の動悸を静められないまま、これですと言いながら、ひそかに自分のポケットから何か包を取り出して手渡すと、ブウはルウより少し臆病なところが有るのか、少し体を引いて、ためらっていたが、又前へ出て「これも。」と言いながら絹糸の縄はしごを非常に小さく巻いた物を手渡した。

 鉄仮面は少しもためらはず、ただ「有難い」と言ったまま、手早く自分の袖口(そでぐち)からその二品を内ポケットにしまい込んだが、その手業の早くて鮮やかなことは、この様なことには十分慣れた人のようで、少しも不手際がなく、あっという間に隠し終わり、元のように両手を出して、そのまま再び引かれて行った。この様子で判断すると、彼はあるいは今日この所で、この様な品物を受け取ることを心待にしていたのではないかと思もわれるほどだった

 ルウは更にオリンプ夫人から頼まれた言伝(ことづて)があったので、又鉄仮面の耳に口を寄せて「貴方がいよいよ逃げ出す時には、オリンプ夫人が堀の外で、すぐに一緒に逃げられるように馬車まで用意して待っているはずです。」鉄仮面はただうなずいただけで一言も言はず、ルウとブウは自分の役目が終わった事を喜ぶように、更に又廊下を奥の方に進んで行き、前から鉄仮面の席と決まっている、穴のような所に彼を押し込み、規則の通り彼の後ろの戸を締めて帰って来た。

 これから約一時間半後、説教の終わる頃二人は又その所に行って待っていると、説教が終わり、全ての囚人が順番に退散を初めた。最後に来た囚人が最後に帰る習慣なので、皆が帰るのを待っている内に、最初の鉄仮面は最初の番人に引かれて去り、いよいよ又自分達の番になった。回りに人が居ないのを確認して戸を開き、鉄仮面を引出したが、気のせいか、彼は前よりずっと元気になったようで、立つのも歩くのも前よりずっときびきびしていた。

 やがて、前にささやいた所に来ると、鉄仮面は又足を止め、小声で二人に向かい「さすが、オリンプ夫人だ、よくこの様な危ないことをしてくれた。俺は説教を聞きながら十分に道具も調べ見たが、あれこれの事を考えてみると、窓の鉄棒三本を外し、外に出られるようにするにはどうしても三晩かかる。そうすると今月三十日の夜から翌十月一日の朝までの間に出るから、オリンプ夫人にこの上更に迷惑をかけますが、どうか目立たない洋服を用意をして、堀の外で待っているように伝えてくれ」

 言葉は確かに騎士の言葉、ルウは思もはず頭を下げ、「かしこまりました。」と返事をしたが、これからは両方とも無言になり、又手を引かれて階段を降り、第二塔の入口に引き返しすと、ここには前と同じように所長が待っていて、この様なことがあったとは夢にも思はず、鉄仮面を受け取って塔の奥へ帰って行った。

 後に残ったルウは満足したようにブウに向かって「どうだ、ブウ、俺が運が向いて来たと言ったじゃないか。」「そうだ。本当にうまく行った。オリンプ夫人の救いたいと言うのはあの鉄仮面に違いないから、この上はただ今の言葉をオリンプ夫人に伝えるだけだ。」「それは晩に又夫人の使いに会ってからの事だ。」こう言って二人は微笑みながら分かれた。

つづき第50回はここから

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