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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面60

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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             第五十一回

 鉄仮面は肩まで水が来るのも構わず、鉄の棒で水門の石を取り外そうとして、力を込めて押し返したが、初めの内は少しも動く気配はなかった。しかし何百年も前に作ったままになっていたので、石と石をくっつける継ぎ物も今は朽ち果てて、ぼろぼろと砂のようにくずれるばかりか、すでにくずれてすき間が出来ている所も有り、この様なところに棒を入れてその穴を大きくし、自分の指は擦り切れて血が出るほど傷ついたが、それでもあきらめず、約一時間ぐらいでやっと一番小さい石一個を外すことが出来た。

 この調子では、自分の体が抜け出られるだけの石を外すには、夜が明けた後までもかかる勘定なので、ほとんど成功の見込みは無かったが、だからと言って、ここから以外逃げ出せる所はなかったので、他にやりようがなく、どちらにしても捕まるなら、他の場所で捕まるより、水門の石を外しながら捕まろう。もし、何かの拍子に夜が明けない内に、この穴を大きく開くことが出来たら、それだけもうけものだと、彼は自分に言い聞かせたのか、わき目も振らず、休みもせずに、水と石を相手に戦った。

 しかし、一個の小さい石も、外れるとそれだけ水門を弱くしたらしく、二番目の少し大きい石は少しはずし易くなっており、一時間も経たない内に、抜けて水の底に沈めることが出来た。さらに三番目の石に取り掛かったとき、急にぱっと水面が明るくなったので、彼は番兵が回ってきた事を知り、自分の体をぐっと水の中に沈め、ただ目から上だけを出して見ていると、番兵はこの様子に気が付かなかったように水門の上を歩いて、破られた第二塔の窓の正面を通って、下手の方へ歩いて行った。

 鉄仮面はこの時ほとんど生きた心地がしなかったのではないかと思われるが、彼は非常に度胸があるらしく、まもなく又、水の上に肩を出し、初めの通り仕事に取り掛かった。
 鉄仮面がしばらく苦しみ、しばらく働いている間に、堀の外では鉄仮面が成功したかどうかを心配し、忍んで来て待ち受けている人々があった。第二塔から左に当たる小高い丘の後ろに馬車を隠し、その窓から時々首を出して、暗闇の中でも鉄仮面の姿を見つけようと、空しく目を見開いているのは、他でもないオリンプ夫人で、同乗しているのはバイシンだった。

 もう一組は水門よりもう少し上に当たる土手の後ろに、二つの石かと思われるように丸くなり、一メートルほど離れて屈んでいるのは、バンダとコフスキーの両人だった。夜も、もう三時になるのに何の音沙汰もないので、コフスキーはバンダに向かって「事によると駄目かも知れませんよ。このバスチューユが三日や四日で破れるものでは有りません。昔から十年も気長に構えていて、そろそろと牢を破り、まだ破り終わらない内に発見されてしまった者も有り、又自分の寿命が無くなって死んでしまった者もいます。」

 「今夜出るつもりでもそうは行かず、何かの都合で明日の晩に延びたのかも知れません。」バンダは少しも驚かず「明日の晩に延びたなら、又明日の晩に来ようが、それにしても夜の明けるまで待っていよう。バイシンの言葉では多分水門からくぐって出るだろうとの事だから、事によると今ごろ水門を壊して居るのかも知れません。」「私もそうは思いますが、今しがた、あの水門の上を番兵がランプをつけて通ったのに下に怪しいものが居るとは思えません。」

 「でも先ほど、第二塔の辺で鳥が騒いだ時、お前は今鉄仮面が飛び降りるところだろうと言ったじゃないか。私はもう塔の外に出ているだろうと思う。」「なるほど、それもそうです。とにかく貴方のおっしゃる通り夜の明けるまで待ちましょう。」この様にささやいて、再び無言になったが、そもそもこの二人は先日の晩、バイシンの家で打ち合わせたように、オリンプ夫人よりも先に鉄仮面がモーリスなのかオービリヤなのかを見極めるため、夫人には知らせないでこの場所に隠れていたのだ。そればかりかコフスキーの工夫で鉄の仮面を取り外すため、いろいろな合鍵から小刀、ピンセットの類などを準備していたが、肝腎な鉄仮面が現れないのはじれったくてしょうがなかった。

 この様にしている内に三時半から四時が過ぎ、空がようやく明けようとする頃、水門の方の水の上に急に一点の塊が現れた。はっきりとは見えなかったが先ほどから、闇の中で見張っていたので、暗さになれていたコフスキーがこれを見つけて、彼はまさに気違いのようになって、「バンダさまご覧なさい。貴方の目には見えませんか。」バンダは首を突き出して「ああ、見える、見える。コフスキーあれは鉄仮面だよ。早く合図を合図を」とほとんど気違いのようになり、小声で催促するとコフスキーは側に置いて置いた暗燈(あんどん)の一方の窓を二度三度開け閉めして、その方へ光を差し向けると、水の上の黒点もこの光を合図と見てか、ゆっくりとこちらの方へ渡って来ようとした。

 一歩一歩近くなるに従って、良く見るとほとんど疑うまでもなくあのペロームの守備隊で盗み見た鉄仮面その人だった。彼は肩から上を水面に現してそろりそろりと歩いて来る。バンダとコフスキーは瞬きもせず瞳を凝らしていると、もう鉄仮面は堀の中程まで来たが、この時堀は急に深くなったと見え、彼の首はちょうど石ころのように、ぶくぶくと水に沈み、後には波も立たなかった。彼は今までの疲れと鉄仮面の重さに耐えられなかったのか、浮き上がることが出来なかったのか、彼の姿を見ることはできなかった。コフ「おや」 バ「おや」 コフ「ああ大変だ。全く沈んで仕舞いましたよ。」

つづき第52回はここから

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