巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面62

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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2009.7.27

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              第五十三回

 
 モーリスかオービリヤか、照らしだしたその顔は、今までの大きな謎を解きあかすものなので、バンダもコフスキーも近くに寄ってこれを見てみたが、二人の顔色はたちまち変わった。二人とも余りの驚きにしばらくの間、声も出せずぼーっとして眺めていたが、ようやくコフスキーは「おお、これは」と叫んだ。

 バンダは自分の事も世間体も構ってはいられないと言うように、振るえる手でコフスキーの腕を引き。「さあ、コフスキー、この様な者の所にいつまでいても仕方が無い。何もかも我々の不運と断念し、さあ、早く家に帰ろう。さあ、おいでさあ、私はもう胸が苦しくなった」と顔をそむけて逃げるように、立ち去ろうとした。「では、このまま、捨てて置きましょうか。」と言い、コフスキーもバンダに続いて立ち上がったが、彼は考えるところがあるのか「それでもこれだけは拾って行こう。」と又戻って、外したあの鉄仮面を取り上げて、そのまま後ろも見ずにバンダと一緒に立ち去った。
 
 この後であの鉄仮面、いや、今はもう鉄仮面を外し取られた、その人はゆっくりと正気に戻りだし、その手をあげたり、足を延ばしたりしながら、土手の後ろで転がっていたが、ようやく立ち上がった。しかし、彼は自分が今何処にいるのか分からない様に、空しくその辺を見回していたが、彼がさっき逃げだして来た、バスチューユの第二塔は明け始めた空を覆いながら、目の前にあった。

 潜ってきた水門もほとんど鼻の下にあったので、彼は一人呟いた「おや、俺はどうしてこんな所にいるんだろう、はてな、何処からきたんだったかな。」と自分から不思議に思って考える内に、記憶が次第に戻って来たと見え、「ああ、そうだ、オリンプ夫人に助けられバスチューユを破って出たのだった。そうそう、堀を半分ほど渡ったとき急に深い所があって、足を踏み込んだと思う間に、そうだだいぶ水を飲んだ様だが、その後は夢中だった。あれからまだ何時間も経っていないだろう。

 そうしてみると誰かすくい上げてくれたのだろうか。いやいや、救ってくれるほどなら夜が明け次第番兵に見つかってしまいそうなこんな危ない所に、一人寝かして置くはずはないだろう。藻がきながらこの岸にはい上がって、心が緩んだ為にここで気絶してしまったのだろう。ああ、そうに違いない。おお、危ないこと、危ないこと。もう一時間もここにいたらどんな目に会うか知れない所だった。どれ」と言って立ち上がったが、そのはずみに冷たい朝風が顔に当たったので、両手で額から頬の辺を撫で回してみて、急に気が付いたように「おやおや、鉄仮面が、これは不思議だ、いつの間にか無くなったぞ、何だか軽くなったと思ったら、これは実に、実に不思議だ」。

 彼は夢の中で夢を見る気がした。ただ、あきれ果てて、身の回りをながめ回しているばかりだったが、鉄仮面の影もなかったのでますます合点がゆかず、「どちらにしろ、あの邪魔な鉄仮面が無くなった事は、何よりも有難いが、はてな、水のために外れるはずはなく、誰かが取り外してくれたに違いない。自分でもどうして外そうかと、こればかりは困っていたのだが、実に変だ。

 この様な不思議なことはない。しかし、こう怪しんでいつまでもここにはいられない。事のはっきりした事は後で分かる時がくるだろう。とにかくさし当っての隠れ場を決めなくては。」と言い、彼はそろそろと土手を越え、あちらこちらを見回していると、ちょうどその時、何処かから、馬の鳴き声が聞こえてきたので、彼はすぐに聞き耳立てて「そうだ、オリンプ夫人の馬車かも知れない。

 夫人が馬車で迎えに来てくれるはずだった。そうそう、着るものだけは用意して来るようにと牢番に頼んでおいたのだった。」こう言って彼は馬の声が聞こえてきた方を見ると、もう空もだいぶ明るくなって来たので、おぼろげに小高い丘も見えてきた。「ああ、あの後ろだ。」と言い、急に元気が出てきたように、足を踏みしめて歩いて行くと、さっき、鳴いた馬の声は、全く彼の推量に違わずオリンプ夫人の馬車の馬だった。

 夫人は前の晩からほとんど七時間も待っていて、今は待ち遠しさに耐えられなくて、バイシンと一緒に馬車から降り、丘の後ろをあちらこちらと歩き回りながら、ひそかに堀の方へ目を注いでいると、遠くの方から黒い人影が土手を越えて現れ、こちらの方にやって来るようなので、ほとんど飛び立つ思いで「バイシンや見ておくれ、あれだよ。あれがきっとヒリップだよ。」

 バイシンも透かしてみて「ああ、何だかバスチューユの囚人の服のようです。」とは言ってみたものの、はっきりとは分からないので、なお、慎重に、そろそろと彼の方に行ってみると、彼も間近になるに従って、オリンプ夫人の姿を見て取ったのか、うれしくてたまらないと言うように、自然に声が出て「ああ、有難い。オリンプ夫人ですか?」と言う。夫人はまだためらっていたが、彼が再び声を出し「貴方のおかげで、ようやくバスチューユを抜け出して来ました。」と言うのを聞いては、もう何をためらっていられようか。

 「おお、よくぞ出て来てくれた。」と言い、両手を広げて進み寄ると、今度は男の方が余りにもてなしが厚いので驚いたように、一歩踏みとどまって、遠慮していたが、彼もうれしさに我を忘れ、これ以上我慢できないと言うように、夫人の手の間に身を投げ込み、抱かれながらに、膝を地面に付け、「ええ、もったいない。この御恩は一生忘れません。」と男泣きに泣き叫ぶ彼の心の中はどんな思いだろう。

つづきはここから
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