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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面89

鉄仮面

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳 

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                 第八十回

 いよいよバイシンを水責めにあわすこと事と決まったので、審問長は先ずやわらかな言葉で「これ、バイシン、既に焼き殺しの刑と決まったその方を、この上苦しめるのは本当に忍びないが、その方としてもせめて処刑を受けるまでのところを、平穏に過ごすのに越したことはないだろう。今更、強情を張ったところで、つまらないから何もかも正直に言ってしまったほうが好いだろう。え、これ、言って仕舞さえすれば、別に水責めをする必要もないのだ。言って仕舞う気はないか。」とさとすように言い聞かすと、

 バイシンはせせら笑い、「死刑も死刑、硫黄火焼き殺しと言う恐ろしい死刑と決まり、その上で調べられたとしても、誰が白状しますものか。ここで、一層の事、責め殺されれば、焼き殺しの苦痛だけでも逃れられますから、どれ、責め道具の続くだけ責めてみて貰いましょうか。事によると、体中へ水がしみこんで、焼くときに、焼かれがいがあるかも知れません。」と馬鹿にした返事をしたので、審問官も、警視官も、もはやこれまでと見て、責め役人に目配せをすると、責め役人は承知してすぐにバイシンの手足を取り、責め台の上に引き上げたが、バイシンは相変わらず軽蔑の笑いを浮かべて、なすがままにさせた。

 そもそも責め台の作り方は普通のベッドの様なもので、そのまん中に縦に一本の棒を渡し、棒の上にあお向けに被告を寝かせ、被告の体はただその棒一本に支えられ、空中に寝るようなもので、右にも左にもころげ落ちる心配はあるが、左右の手と、左右の足と、首の所と合計五カ所に縄をつけ、縄を五方向へ引っ張って、体を大の字にするので、右に落ちようとすると左から引かれ、左に落ちようとすると右から引かれるので、どちらにも少しも動くことは出来ない様になっている。

 そこで下の方にある車を回すと、首、手足につけてある五本の縄はそれぞれその方角に引き締まり、手は伸び、首は抜け、体は五方向へ引き裂かれるのではないかと思われる。これだけでも、もう大変な拷問なのに、このように体中が伸びきって、胃が十分開いたのを見計らって、責め役人は、先ずバイシンの口にじょうごを差込み、閉じれないようにしておいて、次に鼻をつまみ、口からしか息が出来ないようにしておいて、水3リットルの入った水差しを持ってきて、ゆっくりとバイシンの口に注ぐと、水は少しは外にこぼれたが、息をする度に、ゴブリ、ゴブリと腹の中に流れ込む様子は、見ているだけでも可愛そうだ。

 そのうえ、引っ張る車は、下の方で、ゆっくりと回って行くので、バイシンの体は、水を飲む度に、ちょっとづつ引き延ばされ、一番目の水差しの水が終わる頃には、3センチほども長くなったのではないかと思われた。もちろん3リットルの水をほとんど飲みつくしたほどなので、グーの音も出すことは出来なかったが、医者はここで先ず脈を取り、「アア、まだ命は有ります。」と言うと責め役人は少し車を逆に戻し、手足を引っ張っているあの縄を少し緩めると、バイシンは不思議にも声を出し、「ああ、これで喉の渇きは止まりました。もうどなたのお酌でも頂けません。」と言う。

 しかし、少しも苦痛の様子も示さず、うめき声も出さなかったのは、底の知れない強情さと言うべきだった。審問官はもはやバイシンの我慢も尽きたろうと思い、「さあ、一味の名前を白状するのが好かろう。」と促すと、「はい、言いましょう。一味の名前を初め、そのほかルーボアの身に取って大事な事を知っているだけ言いましょう。」

 警視官レイネイは書記に向かって「それ、筆記せよ」と言う様に目配せをし、書記は承知して筆を取ると、バイシンは大げさに声を出して「ああ、白ベッドの話をしましょう。これは後の世までルーボアが秘密にしておこうとしている事ですが、あいつはなかなかの無礼者ですよ。恐れ多くも王族の端につながるオリンプ夫人を昨年の春、ブリュッセル府で殺そうとしたのです。

 これがその当時各国の耳に入れば、ルーボアは世界中の非難を受けるところでした。今でも国王の耳に入れば事によると免職でしょう。この白ベッドはナアローが作ったのですが、レイネイさんはご存じでしょう。」と大胆にもルーボアの悪事をあばき始めたので、警視官レイネイは驚き、かつ怒り、先ず書記の筆を止め、次に責め役人に向かって「もっと責めろ、もっと責めろ」と口早にうながすと、責め役人はただちに手足を引っ張る車を回し、バイシンの体を容赦なく引き延ばしながら、さらに第二の水差しを取り、初めのようにバイシンの口に注ぎ入れた。

 今度は外にこぼれる量も、初めよりは多かったが、バイシンの苦痛は実際数倍以上だった。伸びるだけ伸びたその体を更に数ミリ、数ミリ引っ張られるだけでなく、水は飲むまいとしたが飲まない訳には行かず、みるみる中に顔は紫色に変わり、その体も膨れてきた。やがて第二の水差しが終わる頃は、体の目方も重くなってきたようだ。これを支えていた台の横棒も少したわんできたようだった。

 脈を取る係の医者は、もうこれ以上飲ます事は出来ないと見たのか「いけません、もう死にます。」と叫んだので、責め役人は第二の水差しが空になるのを見て、再び車を止め、バイシンの口のじょうごを外すと、今度こそはグーの音も出せないだろうと思いのほか、まだかすかな声で「白ベッドの事が悪ければ、ズッーと新しい事を話しましょう。これはこの頃の珍しい話ですが、ルーボアが夫のある夫人に迷い込み、それはそれは聞くも哀れなほど見苦しい有様を現しましたが、それでも恋がかなわなかったため、ルーボアは意地になり、そのかたきを返す積もりで、色々な計略を始めました。貴方がたはその計略に使われていながら、まだそれを知らないのです。」と言った。

 警視官も審問官も一緒になって驚き、怒り「死んでもよいからもう一責め、責めろ責めろ」と言いつけると、無慈悲な責め役人はどうして上役の言いつけに背けるだろうか。可愛そうなバイシンはまさに三度目の責め苦を受けようとしている。

つづきはここから

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