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噫無情(ああむじょう)  (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

ビクトル・ユーゴ― 作  黒岩涙香  翻訳  トシ 口語訳

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噫無情    仏国 ユゴー先生作  日本 涙香小史 訳

   八十二 白翁と黒姫 四

 「オヤ貴方は探偵ですか。」
 此の一語に守安は落胆した。顔を赤らめて立ち去った。
 けれど黒姫の身分が幾分か分かった丈は嬉しい。その父の白翁は紳士である。慈善家である。約(つづ)めて言えば、黒姫は立派な人の娘なんだ。
 此の翌日黒姫と白翁は例の公園へ来たけれど、長居せずに直ぐ立ち去った。守安は何時もの通り又その宿まで尾(つ)けて行ったが、入口で白翁は黒姫を先に立たせ、自分だけ後に残って守安の居る方へ振り向いた。守安は隠れる場所が無い。そうしてジッと守安の顔を見た上で家へ入った。

 是れ限り何う言うわけか、翁も姫も公園へ来ない事になった。守安は気が気で無いから、毎夜その宿の前へ行き、二階の窓に灯光(あかり)が洩れるのを眺めつつ、夜の更けるまで徘徊した。恋人はこうした者と見える。あの窓の中に黒姫が居るかと思えば、唯だ灯光を見る丈でも、嬉しさが心の中に満ち満つる様に感ぜられる。

 一週間、毎晩行った。まさか昼間は徘徊して居る訳にも行かない。七日目の夜は何うしたか窓に灯光が見えない。今に見えるか、今に見えるかと思い、夜の一時まで待ったけれど遂に見えなかった。若し世界に太陽が無くなっても、守安は是れほど心配しないだろう。只だ気に掛かってその夜は殆ど眠ることが出来なかった。八日目の夜も又行ったが又窓は真っ暗だ。

 愈々(いよいよ)世界は日の照らない事になった。その翌日はもう耐(こら)え兼ねて、昼のうち出掛けて行き、先きの戸口の番人に聞いた。
 「表二階の紳士は何うかしましたか。」
 番人「一昨日転居致されました。」
 守安「エ、エ、何処へ。」
 番人「転居先を言い置きませんから、少しも分かりません。」
と言いつつ、守安の顔に気が附き、

 「アア、貴方は愈々探偵ですね。」
 守安は狂人の様に為ってここを去った。


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