巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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悪党紳士   (明進堂刊より)(転載禁止)

ボアゴベ作  黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

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悪党紳士        涙香小史 訳

               第十五回

 卓子(テーブル)を取り囲んで歌牌(カルタ)の勝負を争う中、彼の山田と蘭樽伯は太分(だいぶ)の勝ちを得たが、有浦は酷(ひど)く負け、少しの間に、持ち合わせた金子を残らず失い、其の上、幾何の借り越しと為った。蘭樽伯は之を気の毒とし、再度まで金子を貸したけれど、之をも直ちに負け尽くしてしまった。其の中夜も大方に明けたので、有浦は人々に向かい、

 「僕は大分空腹に成ったから、是から食事でも仕様と思うが、賛成する者は無いか。」
と云うと、山田は其の声に応じて、
 「イヤ食事なら、久し振りだから僕が奢ろう。」
と云いながら、蘭樽伯に向かい、
 「伯爵、貴方も今夜は勝った様だから、最(も)う切り上げて、食事に行こうでは有りませんか。」
 (蘭)そうですね。御一諸に参りましょう。
 之で三人は、新たに来た連中に席を譲って倶楽部を立ち出で、近辺の料理屋に入って行った。

 山田は、久振りで有浦を馳走しようと思ったので、前から知っている「デミモンド」三人を招いたが、其の中の一人は、名を丸池お瀧嬢と呼び、先の夜、お蓮と共に夜芝居に行って居た女である。この様にして男女六人打ち揃って食事をしながら、互いに様々の事を話すうち、山田はお瀧嬢に向かって、

 「お瀧さん、お前には大層な旦那が出来たと云うが、本事(ほんとう)かえ。」
 (瀧)アラ、厭なー旦那、でも何でも有りませんよ。ソレ先夜、私がお蓮さんと一緒に、夜芝居で貴方にお目に掛ったでしょう。
 (山)爾々(そうそう)
 (瀧)アの翌朝、私の家へ初めて遊びに来た方が有るのですのよ。其の方は、何(ど)う云う積りか、毎日の様に遣って来て、ヤレ馬車を買って遣るの、家を持たせて遣るのと、色んな事を云うものですから、世間でハ旦那が出来たなどと言うのでしょう。

 (山)ソレ、其の通り、馬車を買って遣るなどと云って呉れるのが、即ち旦那と云う者よ。お前は早や其の旦那に、立派な馬車を買って貰った相では無いか。
 (瀧)イエ、買って貰ったんでは有りません。、買って呉れたから、余儀なく受け取って置くのです。何だか薄気味の悪い人で、私はシミジミ嫌ですよ。
 (山)薄気味が悪いとハ。

 (瀧)イエネ、私の家へ来ると、帰るまでお蓮さんの事を口続けに云って居るの。それに時々私に云い付け、今お蓮が何を為(し)ているか見て来て呉れと言って、日に三度も使いに遣りますよ。若しかしたら、お蓮さんの身の上を探る、探偵でハ無いかと思います。
 此の話しを、有浦は横合いから聞いていて、これはと心配の心が湧き起こった。更に何事を言い出すだろうと、私(ひそかに)耳を傾けて居ると、

 (山)それでお前は、ハイハイと云ってお蓮さんの様子を見に行くのか。
 (瀧)ハイ、行きますけれど、何(ど)う云う訳か、お蓮さんは彼(あ)の後、留守だと言う事で逢えませんから、お客には好い加減な事を云って置くのです。
 (山)それハ変だな、妹の様にして居るお前に逢わないとは。本当に留守だろうか。

 (瀧)私は斯(こ)う思いますよ。彼(あ)の夜、ソレ、下の桟敷に英国の貴婦人が居て、お蓮さんが、彼(あ)れハ誰だろうって貴方に言い、貴方が、
 「林屋で聞くが好い。」
と云ったでしょう。アの後でお蓮さんは、林屋へ聞きに行きましたが、其の翌日、アの貴婦人が急に死んだから、それを悲しんで、誰にも面会を断って居るのだと思います。

 有浦は此の言葉を聞き、先の日、お蓮が我に話した所と照らし合わせて見て、お蓮が未だ我に、何事をか包み隠して居ることは、確実だと思った。此の話しの様子では、お蓮は、初め夜芝居に行って、彼の妹李(まりい)夫人に逢い、其の様子を聞き糺(ただ)そうとして、林屋お民の家に行ったのに相違なく、左すれば彼の写真挿(ばさ)みも、妹李(まりい)夫人から直々に受け取ったか、そうでなければ、お民から手に入れた者だったに違いない。

 それなのに、吾には其の事を包みしているのは、何事(どう)した事だろう。必ず深い仔細が有るに違いない。それに今、お瀧が家に日々来る客があって、其の客が、毎(つね)にお蓮が事を聞き糺(ただ)すと云うのも怪しく、是は又、夜前我が逃がした曲者と同じ人か、又は其の同類では無いのか。何れにしろ事の本を推し糺(ただ)し、曲者の本性を、見破やぶらずには置くものかと、益々決心を堅くしたので、何気なくお瀧に向かい、

 「モシお瀧さんとやら、今聞くと、お前の所へ、此の頃毎日来る客が有るとの事だが、其の客とは何の様なお人だエ。」
 (瀧)其の人ですか。爾(そう)ですネ、年は四十四、五で、上下ともに口髭は綺麗に剃って居ますが、身分は分かりません。或る大家の家令だと申します。

 此の言葉の通りならば、夜前の曲者とは別人の様である。そうすれば此の家令と云う者は、実の入山鐘堂であって、昨夜の曲者は其の手先であるか、それとも二人とも鐘堂に使われる者であるかと、心には未だ合点が行かないが、何気ない振りを装って、話を外の事に移した。

 頓(やが)て此の食事も終って、人々が去(いざ)帰ろうと立ったので、有浦は蘭樽伯に向かい、先刻歌牌(カルタ)室で借りた金は、後刻参上して返しますと約束し、料理屋を立ち出でて我が宿に帰ったが、此の時は早や朝の五時過ぎで、昨夜からの疲れが一時に出て来た者と見え、堪(た)え難いまでに眠気を催したので、宿に帰ると其の儘(まま)寝台に上って、十時頃まで眠った。

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