巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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悪党紳士   (明進堂刊より)(転載禁止)

ボアゴベ作  黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

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悪党紳士        涙香小史 訳

               第二十八回

 弁蔵、勘次と云う二人の曲者が話して居る所へ、帰って来た三太と云う手下の様子を見ると、年まだ十五、六の小僧で、全く宿屋の丁稚(でっち)と見える扮装(いでたち)である。先の日、お仙と綾部家安道が池の傍で談話(はなし)をしていた所へ、手紙を持って来た小僧は即ち此の三太であった。三太は先ず弁蔵の傍に進んで、

 「親分旨(うま)く了(い)きやした。最(も)う直ぐに出掛けやしょう。」
 弁蔵ハ嬉しそうに三太の肩を叩き、
 「感心だ、感心だ、此の向きじゃ、後々太(てい)した者に成れるゾエ。併し最(も)う十時だから、委細は道々聞くと仕様。そこで此所の勘定を済ませ、三人打ち連れて立ち出でながら、足を伊太利(イタリア)村の方に向けた。

 これは外ならず、彼の花房屋お蓮が、お仙に我が身の上を打ち明けた其の日の中に、直ぐ様丸屋町にある花房屋の家をたたんで、お仙と共に伊太利村に来て、住み始めたからだ。弁蔵は歩きながらも三太に向い、
 「全体何(ど)う言う風になっている。」

 (三)私(あっ)しやア、何(ど)うにかして、彼(あ)の手紙をお仙に渡し度いと思ったから、日の暮れ無い前から、彼の家の裏庭の外に忍んで居やすと、五時頃になりお仙はお蓮と一緒に、例の通り庭に出て散歩を始めやした。併しお蓮の見て居る所で手紙を渡しては、事の破れる原(もと)だから、何うかしてお蓮が先へ引っ込めば好いがと気永く待って居る中に、旨(うま)い具合に了(いき)やした。

 アノソレ傳母(うば)の鶴女とか云う女(あま)が、何か用が有ると言って、お蓮を呼びやーして、是でお仙が一人残ったから、私しゃア頭を下げて揉み手しながら其の傍へ寄り、
 「この辺に山田お仙と仰る令嬢は有やすめエか。」
と問うたら、夫(それ)は私の事だと云うから、
 「私しゃア春田町の宿屋の丁稚(でっち)ですが、お客様から内々で此の手紙を貴嬢(あなた)に渡して呉と頼まれやした。」
と云ってアの手紙を出した所、お仙は何だか気味悪相にして、容易には受け取らねエで、私の顔を穴の開くほど見て居やした。

 私しゃ是程旨(うま)く姿を替えて居るから、到底(とて)も見破られる気遣いは無エと思いやしたが、夫(それ)でも何だか気味が悪く、若し彼の池の端で手紙を私たのと同じ小僧だと、気が附(つか)れちゃおジャンだから、澄まアして居やすと、お仙目、恐々(おそるおそる)手紙を取って、暫(しばら)く思案して居やしたが、旦那も親分も言った通り、未だ矢張り幾等か綾部の野郎に気が残って居ると見えて、到頭封を切りやした。

 占めたと思って見て居る中、徐々(そろそろ)と読み始めやしたが、其の時の顔って有りゃせんでした、ヘエ、全(まる)で七面鳥の様に、青くなったり赤くなったり仕やしたぜ。漸(や)っと読んじまって優しい声で、
 「小僧や、此の手紙は綾部さんが自分でお前に渡したのかエ。」
と云うから、
 「ヘイお自分で渡しました。夫(それ)でお返事を戴いて来いと仰りました。」
と云った所では、

 「何かエ、お前直ぐ春田町へお帰りか。」
 「ヘイ、若し貴方が綾部さんにお逢ひなさることを御承知なら、是から直ぐに帰って、十時頃に綾部さんのお伴を致して、又此処へ参ります。」
 「夫ではお前、此の手紙に書いて有る事を知って居るんだネ。」
 「イエ夫(それ)ヤア存知やせんが、唯綾部さんが爾(そう)云いやしたからー。」
と旨(うま)く私が誤魔化したもんだから、初めて安心の様子が見えやしたが、併し流石は令嬢だ、中々オイソレと返事はしやせん。

 暫くの間黙って思案をして居やすから、私しゃ最(も)う是切りで返事が無いだらふかと、実は心配して居やしたが、漸(や)っと思い切ったと見え、
 「夫ならお前、十時頃にお伴をして来ておくれ。十時を合図に私は二階の窓へ首を出すから、其の時お前の方でも、何とか合図を仕てお呉れ。」
と来たから、私しゃア、一思案して斯(こ)う云いやした。

 「ヘイ、斯(こ)う致しやしょう。貴嬢(あなた)がお顔を出せば、私の方で、パッとマッチを擦りやすから、其の光が見えたなら安心して出て来て下せエ。爾(そう)すりゃ私がご案内して、綾部さんの待って居る所へ御連れ申しやすから。」
 「ヨシ、夫では切ッかり十時だよ。」
と云ってズーッと引込んで行きやした。

 何と私の口先は豪(いら)い者でしょう。夫から私は直ぐ様、旦那の許(もと)へ駆け付けて、コレコレと話したら、旦那も感心して二両の褒美を呉やした。親分、是で最(も)うお仙を連れ出す事ア何の訳も有りません。ですがネ、連れ出してから何うするンですエ。門まで連れ出して其の後は。

 (弁)其の後は四つ辻で綾部が待って居るからと言って、欺(ごま)かして四つ辻まで連れて来るノサ。四つ辻にヤ、俺と勘次が隠れて待って居るから、訳アネエ。直ぐ様引攫(さら)って、旦那の許へ連れて行くのよ。
 (三)引っ攫(さら)うって、貴方、若しお仙が声を立てたら何う仕やす。
 (弁)夫にア又声を立てさせ無い工夫が有るから、手前が心配するにア及ばねエ。手前は手前だけの事をすりゃア好いのだ。

と彼是示し合わすうち、早彼の伊太利村にある、鶴女の家の前に来たので、三人は抜き足で裏手に廻って見ると、二階の窓に灯火(ともしび)の影が見えて、お仙は其の母お蓮等と何事をか話し居る様子なので、先ず是ならば大丈夫と、三太を一人其所に残して置き、弁蔵と勘次は是から一丁余り離れた、四辻に行って身を潜めた。後に三太は唯一人、瞬きもせずに二階の窓を眺めて居た。

 アアお仙の身の上が危ういと云うのも、愚かしい程だ。

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