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武士道 一名「秘密袋」   (扶桑堂書店刊より)(転載禁止)

ボアゴベイ作  黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

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  武士道上編 一名「秘密袋」           涙香小史 訳

               第四十三回

 弥生と小桜露人と今は同じく死刑に処せられる身となって同じ此の地の獄に繋(つな)がれているのか。爾(そう)すると黒兵衛が小桜露人を助けようとする様に、縄村中尉は弥生を助けようとする者に違いない。黒兵衛は驚いた様子で、
 「何だアノ弥生嬢も同じ獄に」

 縄「爾(そう)サ、俺はドール村で小桜露人に分かれる時、弥生嬢が未だ生きているなら救う様に尽力すると約束した。それだから共和軍へ帰って以来、弥生嬢の消息を尋ねているけれど一向に分からず、多分南都の刑場へ送られたものと思い、サプネーの戦争が済むや否や、大将軍に一月の暇を貰い、此の土地へ遣って来た。爾(そう)して少しづつ調査をして見ると、愈々(いよいよ)獄に入れられて死刑の日を待っていると分かったから、それで救う工夫廻らして居るのだ。」

 黒「救う工夫とは如何(どう)言う工夫だ。」
 縄「貴様には打明けても差し支えはない。実は獄の取り締まり役同様に囚人の事や死刑の事などを受け持っている男が有る。その男が幸に欲の深い悪人だから、そ奴に賄賂を遣(や)って救うと言うのだ。その外に工夫は無い。」
 黒「それでは貴様の智恵も俺の智恵と同じ事だ。俺も矢張り牢の役人に賄賂を送って救うのだ。其の為に田地を売ったのを幾分を持って来ているが、今夜、実は其(そ)の役人があそこの酒店に来ている筈だからそれで密かに覗(のぞ)いて居たところを貴様に目附く(めっかっ)たのだ。」

 縄「シテ、其の賄賂を受ける役人は何と云う奴だ。」
 黒「腕八と言う背の高い男だ。」
 縄「是は益々奇妙だ。俺の相手もその腕八だ。俺も今夜そ奴に会う約束だから、それで酒店の辺まで来て貴様が覗き込んでいる姿を見付けたのだ。俺は九時に会うという約束だからもうそろそろ行かなければ成らない。」
 黒「何だ九時にか。それでは貴様と三十分位話をする積りと見える。俺には九時半に会う約束だから。」

 縄「彼奴(きゃつ)め、実に太い奴だ。弥生嬢をクレパー将軍の陣中から盗み出し此の獄へ連れて来たのも彼奴だ。彼奴、其の手柄で係員の信用を得、牢番同様の事務を任されて居る者だから、其の職を利用して二重にも三重にも賄賂を貪(むさぼ)って居ると見える。」
 黒「併(しか)し貴様は彼奴ともう確かな約束でも結んでいるのか。」
 縄「ナニ、別に確かな約束は無い。彼は薔薇(しょうび)夫人の遺産の在処(ありか)を俺に聞けば分かると思って居るから、其れだけ俺に強みが有る。」

 黒「成る程分かった。ドール村で別れる時、俺の主人小桜から貴様に渡した秘密袋の中に其の書付が入って居るのだな。何でも彼に先ず約束を履行(りこう)させ、其の上で此方(こちら)が履行する事にしなければ、賄賂の唯取りを食う恐れが有る。」
 縄「其れは俺も注意している。」
 黒「何しろ貴様は俺とほぼ同じ目的で、同じ奴を相手にするとは面白い。力づくでは行かない仕事だから、二人で互いに助ける事にしよう。」

 縄「爾(そう)とも。」
 黒「サア、もう九時だ。貴様は先ず会って来い。俺は桟橋の所で逢う筈だから、これから桟橋へ行って待っている。爾(そう)して貴様も会い、俺も会ったなら、後で又貴様と俺と、彼奴の言った事を較べ合わせて相談しよう。」
と相呼応する睦まじさは同じ目的の為とは言え、殆ど兄弟の様だ。

 この様な折しも獄舎の鐘、九時を報じたので、中尉は分かれて茲(ここ)を出て彼の居酒屋の方に行くと、悪人腕八は心に金儲けを企(たくら)んでいるためか、何時も程には酔いもせず、時をも違(たが)えず出て来て、中尉を認め大事な客と思う為か言葉にも相当の尊敬を現して、
 「ヤア、縄村中尉ですか。」
と言い、更に四辺を見廻して、

 「茲(ここ)では同役等に見つかる恐れが有り、何の話も出来ません。今も水遊会が有りますから、今に同役が酒屋から出て来ます。」
 縄「何だ、水遊会とは。」
 腕「囚人を船に乗せ、大河の水に沈めて、その苦しみ死ぬ様を見て楽しむのです。之を我々の間で水遊会と名付けて有ります。今夜も十二時から百五十人ばかり殺します。」

 嗚呼(ああ)何という邪慳なるや。人を殺すのを楽しみとし、之を水遊会と名附けるとは、聞いただけで身震いのさせられる仕業(しわざ)だ。中尉は単に、
 「茲(ここ)では話が出来ないなら、物陰に行こう。」
 腕八は、
 「此方(こちら)へ」
と云い、中尉を引いて歩み始めたが、何処(どこ)に行くのかと思う中(うち)、今しも中尉と黒兵衛とが語らって居た同じ空家に中尉を連れて行った。

 さては此処(ここ)、彼の密談の場所で、此の前既に黒兵衛を此処に連れて入った為、黒兵衛が此の家を知って居た者と見える。それにしても黒兵衛がまだこの所に居りはしないかと、中尉は先ず其の様子を伺った。



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