巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

gankutu42

巌窟王

アレクサンドル・デュマ著 黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

since 2011. 1.26

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史外史伝 巌窟王    涙香小子訳

四十二、金貨にて凡そ二・・・・

 法師が宝のことを言い出すとは、全く元の発狂に返ったものに違いないと、友太郎は思って、かつ悲しみ、かつ哀れみの色を、我知らず顔に現した。
 早くも法師はそれと見て、「オオ、友太郎、誰でもその様な大金が俺の所有であろうとは思わないから、俺がこの事を言い出すと、直ぐ発狂と思うのは無理は無い。けれど、お前に限っては、俺が狂人でない事は知っているのだから、まさか俺の言葉を疑いはしないだろう。」

 疑いはしないだろうと言っても、疑わずには居られない。病気前なら兎も角、病気のために必ず脳の中枢に故障が出来たのだ。とは言え明らにその様な事は言いにくいから、友太郎は曖昧(あいまい)に「ナニも今ここで宝の事など言うには及ばないではありませんか。貴方の病気がすっかり治った上でゆっくりとうかがいます。」

 法師;「イヤ、今のうちに急いで言っておかなければ成らない。何時なんどき俺が三度目の発作に会うかも知れないのだ。もし、この事を誰にも本当のことと思わせることが出来ずに死ねば、全く取り返しがつかないのだ。俺より外にその宝を知っている者は一人も居ないのだから。」

 一人も知らない宝などこの世に有るはずが無い。いよいよ我が師は自分の脳の中に浮かべている幻影を本当の事だと思いつめ、それを私に信じさせようとしているのだ。言うままにそのことを聞いていては、益々幻影が勝ちを制し、たいした発狂ではない容態を真の発狂にしてしまうかもしれない。

 何とか言葉を設けてこの話題からそらしたい。そらしていればそのうちに幻影が小さくしぼんでしまうだろうと、ただひたすら立ち去る口実を探しているけれど、法師はその暇を与えない。「コレ、友太郎、お前にまで発狂と思われては俺は立つ瀬が無い。イヤ、発狂なら発狂でも好い。そうだ、狂人のうわ言だと思って終わりまでおれの言う事を聞いてくれ。おれは確かな証拠まで示して説明するのだから、聞き終わればまさか信じないわけには行くまい。」

 言いたいだけ言わせては、実に大変である、何とかこの事を思い出しさえしないように忘れさせてしまいたい。けれど、その手段が無い。
 法師;「お前さえ、おれの言葉を信じてくれないならば、おれはもう絶望のほかは無い。絶望して本当に発狂するかもしれない。」

 聞くも発狂、聞かぬも発狂、真に逃れる道はないかもしれない。
ひたすら友太郎が当惑する間に、法師は何処から取り出したのか、黒い釘のようなものを取り出して「まあ、兎も角、これを見てくれ。本当に頼むから。」

 友太郎に渡した。友太郎はその言葉にそむく事もできず、仕方なく受け取ってよく見ると、釘ではない。古い煤(すす)けた紙切れを堅く小さく巻いた物だ。
 友太郎;「これを如何するのです。」
 法師;「先ず伸ばして、中に何が書いてあるか読んでみろ。」

 友太郎はヤットの事で伸ばした。延ばしても又元の通りに巻き戻ろうとするのは。長年巻いてあったからである。何度も延ばしなおして中を見ると、火の中からでも拾い上げたか、端は焼け崩れて、焦げた跡だけ残っている。そうして表面には黄色いような墨で何か文字が書いてある。

 はっきりとはしないがそれを読むと、
 「この宝は・・・・・・」
 「ローマの金貨にて・・・・凡そ二・・・・」
 「の最も遠き・・・・・第二の穴・・・・・」
 「・・・相続人たる・・・・・・」
 「彼一人の所有に属することを宣言す。」
 先ずこのようなもので、切れ切れには読めるけれど、何の事だか全く意味を成していない。
 法師;「どうだ友太郎。」
 友太郎;「私には何事だか少しも分かりません。」

 法師;「フム、分かるまい。初めて読んだばかりでは分かるはずはないのだが、おれには良く分かっている。おれはこの意味を研究するために、ほとんど究極の心血を絞り尽くしたほどだから。しかし、先ずことの次第を順に初めから話して聞かそう。」

 言う折りしも廊下の方で不意に牢番の足音が聞こえた。何時もなら牢番の来る時間ではないけれど、今朝梁谷のただならない様態を見たために、わざわざ見回りに来たのだろう。
 
 友太郎はホット息をした。ようやく法師の傍を離れる事ができる時が来た。牢番が近づかないうちにと、慌てて穴の中へ潜(もぐ)り入って、静かに自分の部屋に帰ったが、何でもこれきりで法師の部屋に行かないようにしていれば、自然と法師の脳中の幻影も収まるだろう。直ぐ行っては燃える火をあおり立てるようなものだからと、この日一日は自分の部屋に引っ込んだままでいた。

 すると、夕飯が済んで少しばかりしたとき、法師が利かない体を引きずり、引きずり、自分の方から友太郎の部屋に穴の道を潜(くぐ)って出向いて来た。その熱心には驚かずには居られない。単に脳中の幻影ならば、果たしてこうまで熱心に成る事が出来るだろうか。

第四十二回終わり
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