巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

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巌窟王

アレクサンドル・デュマ著 黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

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史外史伝 巌窟王    涙香小子訳

五十四、モント・クリスト島

 いよいよモント・クリスト島へ上陸の出来る時が来て、待てば海路の日和とはこのことである。密輸船の船長等が会議のためにこの島に集まるのだから、誰も友太郎に注目する者は居ない。全く友太郎は誰にも怪しまれずにこの島に上陸する事ができるのだ。このような機会が、願ったと言っても、二度と来ようか。

 船はレグホーン(リボルノ)の港から出発するのだ。明日出発すると言うその前夜は、友太郎にとって、最も気がもめる一夜であった。いよいよ梁谷法師に教えられたその巌窟(いわや)に入る事ができるかと思えば、胸が騒いで眠るにも眠られない。

 巌窟の中から大金を取り出して、我が思う計画が全て実行されるようになればどうだろう。それとも、もし巌窟の中に、何かの間違いで大金が無くなっているようなことが無いだろうか。それからそれへと心配も出て、希望も出て、心の中は乱れた麻のように、もつれ絡(から)まるばかりであった。そのうちにようやく夜が明け、ようやく出発の時となった。

 その頃の船の速力は、順風に帆を上げて、極々軽い早い船が一時間に八ノット(14.8km/h)から十ノット(18.5km/h)であった。その速力でレグホーンからクリスト島まで、凡そ二昼一夜で行くことが出来る。出帆してから翌日の日の暮れに首尾よく島の片一方の陰に碇を下ろした。

 他の船は未だ到着していない。明朝までには追々到着する事であろう。友太郎は早く上陸したいと言う思いには我慢できなかったが、船長からその命令がくだらないから、ほとんど待ちかねて、船長に聞いた。
 「我々は何時上陸するのです。」
 船長;「船の上で夜を明かすより外はない。上陸しても人家も無ければ雨露を凌ぐような巌窟(いわや)も無いしさ。」

 気にも留めずに船長の発する偶然の言葉だけれど、巌窟も無しとの一言がひどく友太郎の胸にこたえた。真に巌窟が無いとすると、巌窟の中の宝も勿論あるはずがないのだ。

 今まで待ちに待ち、楽しみに楽しんだその宝が梁谷法師の空想に過ぎなかったのだと、一時はこのように思ったが、いや何、巌窟は有っても船長が知らないのだろう実は誰にも知られる様な所に大金を隠して置くはずはない。船長が知らないないのはかえって大金が今もって無事に隠れている印だろうと、このように思い直した。

 夜が明けるまでに、果たして他の船も追々ここに集まった。そうして船長から船員一同に上陸するのは自由を言い渡されたのが朝の六時頃であった。言い渡しに応じて第一に上陸したのは友太郎である。この時の彼の気持ちは昔コロンブスがサンサルバドールに上陸した時の心地と大した違いは無い。

 友太郎は前から誰にも怪しまれない様に島内を見廻るために、連銃を買って置いた。上陸すると同時に、これを肩に猟に行くのだと言って、一人、島の中の岩山に入り、その姿を隠した。もっともこの島は岩又岩で、畳み上げたようになっていて、草木も多くは無く。したがって鳥獣は沢山はいないが、山羊の類が多少は生息している。それに余り銃による漁師が来ないところなので射止める事も難しくない。

 島の一方では盛んに密輸入の獲物の分配会議が開かれている。水夫の多くはそのほうに気をとられ、誰も友太郎の行動には目も留めない状況である。その間に友太郎は子山羊を一頭射て持ち帰り、これを一同に与え、後ほどここを立つときに、料理して食おうと約束して又去った。

 そうして今度は、彼のスパダの遺言に記して有った指示に従い、海岸を調べ始めたが、どの岩もこけや海草に覆われていて、かって人が通った跡だろうと思われるところも無い。勿論三百年前のことであるから、今までその跡が残っているはずは無いが、肝腎の巌窟(いわや)と思われるものが見当たらないのである。

 けれど、綿密に注意して、ようやく岩の所々に昔足場のために石を欠いたかと思うようなくぼみが有るのに気が付いた。これも或いは苔に隠れ、或いは雑木の根に被われなどして居るので、見つけられないところも有るけれど、水際を東西に、そのくぼみが転々と断続して居る所を見ると、自然の偶然とは思えない。

 アア、これが我を導く手掛かりである。何処に始まったかは分からないけれど、遺言書に従えば多分は島の東端から来ているのだろう。これを伝って行きさえすれば、その尽きる所が宝のある所に違いない。根気良く調べ、調べて、遂にその点々がとある雑木の茂みの中に入ってしまって居る事を見極めた。

 この茂みがたぶん、巌窟の入り口の蓋になっているのだろう。これを押し分けて進めば、直ちに巌窟か、或いはなおも戸のようなものであって、入り口を隠しているか、どちらにしても探すべきところはここである。
 ここまで見当をを付けて置けば、この後更にこの島に船も船長も、一切の誰も立ち寄っていない時に、調べる事にしなければならない。

 こう考えをまとめて、ここを去り、再び岩の最高所まで登って見ると、早や午後の五時かと思うほどに日は傾き、会議も終わり、船も多くは去った後である。そうして我が船の水夫等が、草原に集まって、先刻与えた山羊を料理し、今や食事を始めようという時である。食事が済み次第に、船に帰って又ここを出帆するのだ。

 水夫等は友太郎の姿が岩の上に現れるたのを見て、「早く、早く」と呼び立てた。彼らは友太郎を、この馳走の振る舞い主と立てているのだ。友太郎は呼ばれるままに岩また岩を伝って底へ急ごうとしたが、たちまち足を踏み外し、凡そ1丈(三メートル)以上もある深い岩の割れ目の様な所に転げ落ちた。

第五十四回終わり
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