巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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白髪鬼

マリー・コレリ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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             (一〇一)

 罵(ののしり)りこらしめる私の声の鋭さと、にらみつける私の目のすさまじさには、彼女ナイナは逆らう事ができず、隅の方に怖がってびくびくしていたが、彼女の口にはまだ私を言いこめようとする毒語があった。彼女は泣きながら早口で、「何もこれ程責められる罪は犯してはいない。夫に隠して外に情夫を持っている女は世間にはいくらでも有ることだ。一人ならず二人も三人も情夫持つ女もあるのに」と言い返した。

 ああ、これは何という暴言だ、何という無礼だ。私はほとんど彼女の舌を引き抜いてやろうかと思うほど焦りながら、「まだそんなことを言っているのか。世間の女が密夫を持つには、世間の夫が私のようにその妻を責め懲らしめる道を知らないからだ。」

 「私は世間の不義者達に見せしめのためお前を懲らしめ、この後二度と不義をする者がいないようにしてやるのだ。良く聞けナイナ、お前には良心と言うものがなく、罪を犯しても罪だとも思わないのか。世に姦淫ほど汚らわしい罪はまたとあるだろうか。」

 「夫の家に住み、夫の名を分かち、夫の大事をことごとく任されながら、その夫の心に背き、夫の妻を盗もうとするような夫の敵に内通し、一家を治める身をもって夫の敵のもてあそびとなる。これが汚らわしくないと言うのか。」

 「昔から城を守る者が敵軍に内通するのを、この上ない罪としている。妻にして他に通じるのはそれよりももっと罪が深い。城を守る者は一人ではない。千万人のその中で一人自分の身を売るので、罪は罪でも城にとってはただ一部、後にまだその城を守る者はいくらでもいる。」

 「妻は一家にただ一人、その一人が一家に背いて他に通じたら一家を誰が守るのだ。人殺しを大罪と言うが、姦通は人を殺し、家を殺し、夫の名誉を殺し、生涯を殺すのだ。それもただ己の腐った腸(はらわた)に満る、腐った情欲のためにするのだ。これでもお前は自分の罪が分からないのか。」

 「更にお前は世間の婦人が何人も密夫を持つと言うが、一人持てばその罪は、千万人持つのも同じ事。一人だから罪が軽いと言うことはない。ましてお前は一度ならず二度、三度までその罪を犯している。」

 「ハピョの妻としてギドウに通じ、ギドウの許嫁の妻でありながら笹田折葉と夫婦の約束をし、その上又笹田折葉の目を忍び、ギドウに何時までも私の情夫でいろと、細々とした手紙を送っている。お前はわずかの間に三人の夫を持ち、その三人にことごとく背いている。広い世界にこのような婦人がどこにいる。」

 「三度夫を持ち三度とも操を破る、この上長く生かして置いたらまだ何度操を破るか知れない。これでも自分の罪が分からないか。」私はほとんど我が声が枯れるまで叫び尽くしたが、ああ、蜂は死ぬまで人を刺すその針を収めずとのたとえのように、毒婦は死ぬまでその毒を収める事ができないのか。彼女はまだ口の裏で

 「罪ではない、罪ではない。私には罪を犯す心はない。美しく生まれたため、それで男が迷うのに、迷う男を罪と言わず、美しく生まれた者を罪というのか。迷うのは男の愚、その愚かさを私が防ぐと言うことはできない。貴方もこの私に迷い、ギドウもこの私に迷ったが、私から求めはしない。私はギドウを愛しもせず、なおさら貴方を愛するものか。それに迷ったギドウは愚人、貴方はまた罪人だ、罪人だ。」

 ああ、どこまで毒語を放つものか。私はただあきれにあきれ果て、もはやこの上争う気持ちはない。「そうだろうよ、愛と言う清い心はお前のような腐った体には、神が授けてはくださらないのだ。愛が無いのに愛が有るような言葉を吐き、愛が有るようなふりをするから、それをすなわち罪というのだ。それがすなわち人を欺き操を破るというものだ。獣には欲があっても愛がない。お前を人面獣心と言うのもここのところだ。そのような汚れた言葉を吐くだろうと思ったから、その言葉が再び人間の耳に入らないように、何時までもお前をこの穴に閉じこめて置くことに決めたのだ。」

 「ええ、罪のないものを」
 「だまれ、お前の不義の数々は、ことごとく私の手に確かな証拠を握っている。証拠は世間に出て争う時こそ必要なものだが、お前をこの穴で終わらせるので不要だから、さあ皆返してやる。」と言った。私はナイナからギドウに送った手紙を初めとして、何通もまとめた束を彼女の膝に投げ、

 「人間は絶食しても一月くらいは生きられると言うことだから、さあ、この穴の暗闇で今から一月その証拠物をおもちゃにし、これでこの身の不義の証拠は、世間には一つも残っていないと安心しているが良い。そのうち世間ではお前を忘れるだろう。どれこれで生涯の別れにしよう。」

 と言いながら、私は立ち去ろうととして、まず輝いているろうそくのうち一本を吹き消すと、ナイナはあたかも餓鬼のように私の足にかじりつき、哀求する声を張り上げ、「ええ、それは余りに冷酷です。貴方はこの墓倉から抜け出たと言いましたが、その抜け道だけは教えてください。」
 「お前を閉じこめようと思ったからその抜け道はふさいでしまった。私が出口の戸に錠を下ろして立ち去れば、決して抜け出ることはできない。」ナイナは声を出して泣き、

 「許して、ええ、それだけは許してください。穴の外へ連れ出してさえくだされば、どのような目にでも会います。私の髪の毛をつかみ不義者の様を見ろとネープル(ナポリ)の町を引きずってくださるともかまいません。その上裸にして叩き(たたき)捨ててもかまいません。どうでも貴方の気の済むようにしていいです。ただ命だけは助けてください。しめった暗い、土臭いこの穴で、ええ、そればかりは、ええ、あまりに恐ろしいやりかたです。」と私の足に必死に取り付き、蹴っても離れず、振りほどいても去らなかった。


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