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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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白髪鬼

マリー・コレリ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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白髪鬼

             (二十七)

 おのれ人非人め、心にこのように私を見下しながら、上辺をとりつくろって私に親友と呼ばれるのをそのままにして、私の家に入り込んだだけでなく、私の妻を奪い、死んだ後では私の全てのものを我がものとし、しかも、私を馬鹿者よ、大馬鹿よと罵(ののし)っている。私がもし胸に大きな復讐の計画がなければ、たった今、この場所で彼の喉をつかみつぶし、息の根を止めてやるところだ。怒ってはならないと思ってはいても、どうしても怒らないわけにはいかないほどだったのだ。

 彼は更に続け、
「第一ハピョと言う奴は、人にものを頼まれたら決して嫌と言うことのできない男でした。え、馬鹿ではないですか。少しのことを哀れがり、人に物はほどこすが、自分では一銭も親の財産を殖やそうともしないで、幸い大家に生まれたから慈善家などと褒められたようなものの、もし、貧家に生まれたら取り柄のない厄介者です。彼を褒めるのはその実彼をおだてているのです。おだてに乗って親の財産を減らす男ですから、知恵の底が知れているでしょう。その一命を落としたのも、やはり慈善というおだてに乗り、伝染病の病人を助けようとしたからです。まず、命知らずです。」と憎々しげに言った。

 社交の世界ではこのような言い回しは才弁とも話し上手とも言われ、もてはやされるが、私はもはやこの上自分の腹立ちを、押さえられそうもなくなったので、彼の言葉を留めるために、無理に大声で笑い、「あははは、これはおかしい、本当にその通りです。今の世で善人というのは結局馬鹿者の異名です。貴方の考えは私の考えと同じです。」と言い、更に面白さに耐えられないというように手を打ちまぎらわせると、彼も又私と同じように笑いこけた。

 このようなところにメードが銘酒を持って来たので、私は救われた気持ちでこれを飲み、彼も話の喉をうるおすと言う風にこれを飲み、話は続いて私が死んでから葬式のことに移り、ギドウ自ら牧師に従い私を墓場まで送ったという事に、私はわざと不思議がり、
「貴方が伝染病の死人を墓場まで送るとは実に危険ではありませんか。貴方もいくらか慈善家にかぶれましたか。」と笑うと、彼は「違いない」と同意して笑い、さらにまた、
「慈善と言うわけではありませんが、そのころ私はハピョの家に逗留していましたので、つまり、浮き世の義理と言うものです。それに、私は他の人と違い、少しも伝染病を恐れません。」

「え」
「いや、実につまらない事柄ですが、自分で深く信じていることがあるのです。お笑いになるかも知れませんが、幼いとき東洋から来た人相見が私を見て、この子は決して病気で死ぬたちではないと言ったそうです。乳母が何度も話していました。まさか当たりはしないでしょうが、それでも私はなんとなくその予言が当たりそうな気がしています。

 私は今までギドウとつき合ってきたが、このことは今聞くのが初めてだったので、何か新鮮な思いがして、
「へええ、病気で死ななければ、何で死ぬと言いましたか。」
「それが、不思議な予言ですよ、一度非常に親しくした親友に殺されるのだと言いました。」私は実にぎょっとし、
「なるほど不思議な予言ですねえ。」

 「ところが、今となっては、その予言がはずれています。私のまず親友というのはハピョですが、彼は私を殺すはずはなく、外に親友はなく、ハピョはすでにこの世にの人ではありませんから、どうやら、誰にも殺されずに済みそうです。」いやいや、済みそうにない。どうやら予言が当たりそうだ。

 私は腹の中でうなずきながら、それにしても、ギドウがどんな気持ちでこんなことを言うのだろうと、じっと彼の顔を見てみた。
幸い私の目はかねてからのサングラスに隠れているので彼はそれに気が付かなかった。だが彼の顔は、今まで晴れ晴れとしていたのに引き替え、何となく曇って見え、少し悲しげなところがあるのは、あるいは自分の心に、いくらか気が引けるところがあるからなのか。それとも、虫が知らせると言うたぐいのものか。

 「でもやはり、ハピョを親友として愛していたのですね。貴方は」
「いいえ、愛すると言うほどではありません。ただ彼は私の絵を何枚も買ってくれましたから、それで、商人がとくいを思うように彼を思っただけのことです。貧乏画家は誰でも買ってくれる人に世辞を言います。友達ではなく、世辞の相手と言うくらいです。それに、彼は妻をめとりましたから。」

 「なるほど、妻が貴方とハピョの間を隔てたと言うのですね。」
「と言うほどのことでもありませんが。つまり妻を持てば誰しも知人によそよそしくなる勘定です。」と言いながらも、彼はこの話題を余り好まないらしく、外の話題に移りたい様子で、「おお、こうしている中に酒も尽き、夜も8時を過ぎました。少し散歩でもしましょうか。」
 
 私は立派な時計を出して眺め、
「なるほど8時過ぎです。ご覧の通り、私は眼病でランプの光るところは良くありません。それに夜ふかしも老体にさわりますから、もう宿に帰って休みましょう。どうです。私の宿まで行きませんか。」と言い、払いを済まして立ち上がると、彼は同意したように私と並んでここを出た。

 私は歩きながら、
「しかし、是非とも貴方の描いた絵を拝見したいものです。私も好きですからハピョが買ったくらいは買いますよ。ハピョの代わりに笹田というとくいができたと思えば良いでしょう。」
「それはもう何より有り難いお言葉です。必ずご覧に入れましょう。ですがね、幸せなことに私もハピョが生きていた頃ほど貧しくはないのです。実のところ、もう、6ヶ月もしたら、絵かきをやめようと思っています。」

 「おお、それは結構、誰かの財産でも譲られて金持ちになるというのですね。」
「そうです。財産を譲られるというのではありませんが、つまり、先ずは同じ事です。非常な財産を持ったある婦人と結婚するのですから。」
 ああ、人非人め、今から6ヶ月後に、私の妻、ナイナと結婚するつもりで、私の財産をあてにし、早くもこのような大口をたたくのか。

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