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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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白髪鬼

マリー・コレリ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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白髪鬼

             (五十一)

 サングラスを取り外して私の目を見せてくれとは、私の妻になろうと言う者にとっては、もっともな願いだが、私にとっては大難題だ。私は最後の時が来るまで、この目を隠して置かなければならない。だから私は驚きながらも非常に冷淡に構えて、

 「いや、こればかりは許してもらはなければなりません。サングラスを外すと光線のため非常に痛みを感じるだけでなく、ついには治療しても元に戻らない盲目になってしまうと医者に止められていますので。しかし、その内にまた見せられる時が来るでしょう。」

 「時とは何時の事ですか。」
 「はい、いよいよ婚礼の式が済んだらその晩に見せて上げます。」ナイナは少しじれったそうに、
 「おやおや、待ち遠しい事ですねえ。」
 「はい、待ち遠しいのは私も同じです。なるべく早く婚礼を済ますように、今からその日程を決めて置きましょうか。そうですね、今が十二月ですから、来る新年の二月としようではありませんか。」

 ナイナはほとんど力無く、
 「だって、夫に別れてまだ間もなく、それに、星子の亡くなったのもほんの先日ですもの。」
 「いや、夫人、二月になればハピョ殿の不幸から早半年以上が過ぎます。貴方のような若い方が半年も一人で暮らせば十分に義理が立ちます。

 それに星子が亡くなったのは、なおさら貴方の寂しさを増す道理、そのために婚礼を急いだと言えば誰も無理とは言いません。たとえかれこれ言う者が有ったにしろ、それらの口をふさぐ工夫はいくらでも私の胸にあります。」と言って、あたかも文句を言う者と決闘して、御身のためにその者を殺すべしと言うほどの決意を示したので、ナイナは私をそれほどまでも心酔させたかと自分でも満足したように笑みを浮かべて、

 「では、その通りにいたしましょう。それに又、今まで女嫌いだと評判を取っていた貴方が熱心に私を恋い慕う人となり、そこまで力を入れてくだされば、私もその名誉に対して、万事貴方の言うままに従いましょう。」

 「ですが、夫人、私は世間で言う恋人のような熱心に恋い慕う恋人ではありませんよ。もっとも早く婚礼をしたいことはしたいですが。」
 「なぜそんなに早く婚礼がしたいのですか。」
 「なぜと言ってはっきりとした理由は有りませんが、ただ、何となく貴方を我がものにしたいのです。他人が二人の間に立ち入らないように、貴方を真に私一人のもの、私の自分の身も同様に・・・」

 ナイナはまた微笑み、
 「それ、そのように思うのが愛情と言うものです。貴方は知らず知らず私を愛しているのです。もっとも貴方ほどのご身分では私風情(ふぜい)を愛するとはご自分の心にも承知する事ができないかも知れませんが、全く私をお愛しなさればこそ、そのような気がするのです。

 私は少しの間無言でいたが「そうですね、あるいはそうかも知れません。なにしろこんなことは経験が有りませんから、自分の心が愛情か愛情でないかその区別もつきませんが、とにかく貴方が他人のものに、もしなるかと思うと、なんだか腹が立つような気がして。」

 「それが嫉妬の始まりです。嫉妬が無いのは真の愛ではないと申します。」
 「片時も貴方のそばを離れては安心できません。」と言いながらも、偽りをもって固めた不義の妻にこのような優しい言葉を言うかと思うとほとんど腹立たしさに耐えられず、こぶしをしっかりと握りしめたが、ナイナはそれにも気がつかず、更にうれしそうな顔で、

 「貴方がそうまで思ってくだされば、結婚した後もますます私の身の幸せだろうと思います。」
 このように言う心の裏側を探って見れば、私の心は非常にだましやすいと見て、結婚した後までも、私の目をかすめて他の男を愛することは意のままだと思って、喜んでいるのだろう。年老いた男を夫として喜ぶ女は誰もそのだましやすいのを喜ぶのだとは、ある通人の金言ではなかったか。

 数時間経って、私は別れを告げるため椅子を離れ、
 「いや、あれこれ言っているうちに夜もふけます。私は実のところ病人も同じで、夜ふかしができませんので、今夜はこれでおいとまします。」
 ナイナも同じく椅子を離れ、別れを惜しむように私を見上げて、
 「だってそれほどの病人でもお有りでないでしょう。もっとも私の手で介抱すれば追々直りますよ。はい、真の愛情をもって他人にまねのできないほど介抱し、それで健康にかえったと言われれば、私も肩身の広い思いがいたします。」

 「それもそうでしょうが、このような老人、いや病人を夫に選び今に後悔なさるかも知れませんよ。」
 ナイナは断固として、
 「後悔いたしません。後悔などは愛せぬ人の言うことです。真に愛すれば、その人の病気には自分も一緒に病気になることを願うほどだと申しますもの。ですが貴方の体つきではそう弱いようにも見えません。」

 「いや、元から弱い骨格ではないのですが。」と言いながら私は我が身を引き延ばして立つと、どうしたのかナイナは非常に驚きそして恐れる者のように、「あれえ」と一声高く叫び、ほとんどよろめいて背後の方に倒れそうになった。気絶でもしないかと思い、私はあわただしく手を延ばして抱き留めた。

 「夫人、夫人、どうかしましたか。気分でも悪いのですか。」と急いで聞くと、ナイナは苦しい息を吐き、しばらく辺りをきょろきょろ見るだけだったが、
 「ああ、本当にびっくりしました。」
 「何をそんなに」

 「いえ、何でもありません。貴方はもし、もしハピョの何かではありませんか。」と言って、自分から思い直したようにまたため息をついて、
 「あんまり良くハピョに、はい、貴方の立ち上がる姿が似ていたものですから、ああ、私はもうハピョの幽霊が出たのだとこのように思い、いや、ふと、そのような気がして本当にびっくりしました。」と言う声も落ち着かず、額には玉のような汗が浮かんでいた。
 
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