巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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活地獄(いきじごく)  (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

ボア・ゴベイ 作  黒岩涙香  翻訳  トシ 口語訳

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   活地獄(一名大金の争ひ)    黒岩涙香 訳

   第四十二回 鳥村と再会した町川

 

  柳條は厭々ながらも仕方なく馬車に乗った。怪我人は我が恋の敵、馭者(ぎょしゃ)は先夜の恐ろしい決闘の関係人である。相手は探偵らしい怪しい男、宛(さな)が針の莚(むしろ)に座す思いがし、無言の儘(まま)に進むうち、怪我人は目を開いた。開いて柳條の顔を見るやいなや非常に驚いた様子で、

 「ヤ貴方に、我が敵にーー介抱され。」
と云っただけで又目を閉じた。探偵らしい彼の男は隙(すか)さず柳條の顔を見詰めて、
 「貴方は此の方を知らないと云ったけれど、此の様子では満更知らないでもないようですネ。」

 柳條は腹立たしくて我慢がならなかったけれど、何気ない声を作って、
 「ナニ知りますものか。」
 男「でも貴方を我が敵と云いましたぜ。敵と云うには余ほど深い因縁が無くてハ。」
 柳「でも私は知りません。多分頭を打って脳髄がが狂ったから、その様な事を云うのでしょう。」

 彼の男はセセラ笑い、先アその様な事に仕て置きましょう。」
と云った。何所まで憎いか底の知れない男である。その中に馬車は侯爵の家の門前に着いた。彼の男は早くも飛び降りて門番を呼び、事の次第を手短く説き聞かすと、門番は驚いて内に入り、大勢の下僕を呼んで来て、前後不覚の侯爵を家の内へと抱き入れたので、柳條はホッと息し、今の間に早く帰り、馬車賃を払って立ち去ろうと、衣嚢(かくし)の中を探るうち、件の男は早や来て馬車に飛び乗り、貴方は用事があると仰(おっしゃ)ったが、何所まで行くのです。」

 柳「何所まででも好い。是で分かれましょう。」
 男「イエそうは了(いき)ません。若し此の事で警察へでも呼び出されれば、互いに口の合う様に、今ここで打ち合わせて置かなければ、エ貴方は一体全体何方の方角へ行くのです。」

 柳條は少しまごついた末、彼方(あっち)の方へ。」
とヂヨン街の方に指させば、
 「それは幸いです。私も彼方(あっち)の方に用事があるから一緒に此の馬車で行きましょう。」
と云いながら隙(すか)さず馭者に指図すると、馬は一散に駆け出した。柳條は益々当惑し、何とかして此の男と分れようと、そればかりに気を揉むうち、生憎に馬車は既にヂヨアン街に進み入り、柳條が今朝出た町川友介の家の辺(ほとり)まで来た。

 ここで降りれば、此の男に我が居所を悟られるに違いない。探偵に居所を知らすのは身の為にならない。二三町(200から300m)行き過ぎた所で、その中に足場を見て飛び降りようかと、思案も未だ定まらない折りから、又向こうから駆け来る一輌の馬車があった。その馬車は丁度町川の家の前で停(止)まり、我が馬車と行き違いになった。

 此の時馬車から立ち出でた人を見ると、是こそ旅装束をした町川友介だったので、さては今帰ったかと柳條が驚く暇も無く、友介は柳條の傍に在る彼の探偵らしい男を見て、
 「オヤ貴方は。」
と声を掛けると、その男も又同じく貴方はと驚いて受け答える。此の男はなんと町川の知り人であるか。柳條は怪しさに耐え兼ねて、

 「町川君、君は此の方を知って居るのか。」
と我知らず口を開いた。
 町「イヤ知って居る所か、同じ馬車でペリゴーまで旅行した道連れだもの」
と答えた。
 だとすれば此の男は、先頃の手紙に在った、自称士官梶田とやら云う者であるか。

 柳條は未だ町川の第二の手紙を見ていなかったので、彼の詳しい身の上を知る由も無い。彼は又慣れ慣れしく町川に向かい、
 「イヤ私の方が一日先へ帰ったが、ここで逢うとは思わなかったが、成る程これが貴方のお店せだな。シテ此の方は矢張り貴方の何かですか。」
と柳條の事を問う。

 町川も失念(ぬかり)なく、
 「イヤそれは店の番頭で。」
と答えたけれど、彼果たして此の答えを信じたか否や。
 男「イヤそれは不思議だ。こうして相乗りしたのも御縁だろうが、今日は少々用事があるから、重ねて緩緩(ゆるゆる)伺いましょう。」
と云い終わって、柳條をここに下ろし、彼の男はその馬車に乗ったまま何所かへ急がせ去った。

 後に柳條は夢を見る心地で、
 「一体全体先ア何うしたと云うのだ。」
と迫込(せきこん)で問い掛ける。
 「イヤここでは話しも出来ない。先ず一緒に来たまえ。」
と言って共に二階へ上って行き、町川は手提げ鞄を下ろしながら、 
 「僕の手紙を見ただろうネ。」
 柳「先日一通受け取ったが。」
 町「二度目のは未だ着かないか。」
 柳「着かないよ。君から来たのは唯一通切りだ。」
 町「では手紙より当人が先に着いた。そうだ手紙と僕と一緒の馬車だから、今夜配達するのだろう。左すれば君は未だ今の男を知らないだろうネ。」

 柳「勿論知らないサ。君の旅連れだったと今聞くのが初めてだ。」
 町「驚きたまうな、アレは君の従兄だぜ。」
 柳「エ僕の従兄」
 町「そうサ、従兄であり敵だ。即ち鳥村槇四郎だ。」
 柳條は倒れる程に驚き返り、

 「ナンダと、彼が鳥村か、では鳥村が君と一緒にペリゴーへ行ったのか。全体何の目的で。」
 町「不思議じゃないか。栗角や僕と同じく、矢張り今井兼女に逢う為サ。先アその様に驚かずに落ち着いて聞きたまえ。詳しく顛末を話すから。」
と言って町川は柳條を鎮めた。


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