巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

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決闘の果(はて)(三友社 発行より)(転載禁止)

ボア・ゴベイ 作  黒岩涙香  翻訳  トシ 口語訳

since 2019.1.14


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   決闘の果   ボアゴベ作  涙香小史 訳述
         

     第三回 ピストルを取り上げた二人

 ここに到りては退(ひ)くにも退かれず、敵の介添人たる古山禮造は非常に落胆の様子を見せ、
 「イイ、それでは致し方が有りません。短銃(ピストル)の箱はここに有ります。鍵は小林医学士がお持ちの筈ですが。」
と聞いて小林は衣嚢(かくし)《ポケット》を探り、
 「鍵は是です。」
と差し出だした。
 古「成る程是に相違有りません。大谷介添人よ。篤(とく)《じっくり》と御覧を願います。吾々は後にて苦情の起こらない様、此の通り私と小林氏と立会の上で、新しい短銃を二挺買い、箱は私が預かり鍵は小林氏が管理しました。此の箱に私が今まで手を添えて、錠は卸(おろ)した儘(まま)で置いた事は、貴方にもお分かりでしょう。」

 大「イヤ、手品師の口上の様に、爾(そ)う管々しく言い訳は聞くに及びません。早くお出しなさい。」
と大谷は手に取り上げて錠を開き、先ず短銃(ピストル)を取り出だしながら、其の筒の中を検め見、次に火薬(えんしょう)を手に滴(こぼ)して色を眺め、又次に弾の重さを量り終り、

 「是で宜しい。貴方は小林氏と共に弾丸を一発お込めなさい。私は藻岸氏と共に距離を定めますから。」
と言って其の所を立ち去りながら、彼の藻岸中尉を指し招いて、本人同士の立つ可き位置から二十足の距離を測り始めた。

 藻「向き様に依っては丁度一方は日を負い、一方は日に向かうから、不公平です。こう筋違いに立たせましょう。二十歩と言うと随分近過ぎますので、何うか怪我が無ければ好いがと気遣います。」
 大「併し空中を打つ約束では有りませんから、何うせ怪我は覚悟の上で無ければ成りません。今更三十歩に改める訳にも行きますまい。」
 
 藻「ハイ、併し貴方の方が背が高いから、貴方の足で願います。」
とこの様にして距離を測定(さだめ)る間に、小林と古山は短銃の弾丸込を行った。古山は手先の奇用な男にして、日頃歌牌室(かるたしつ)でも人目を眩(くら)ますとの評判もある程なので、其の疑いを避けようとしてか、宛も手品師が其の品物を見物に示す様に、指の先にはさんで高く差し上げ、

 「是で好いか。」
と云はぬばかりの身振りにて込め終れり。此の所へ大谷と藻岸も距離の測量を終って立ち帰ったので、古山は又も大谷に向かい、此の短銃(ピストル)を手拭の下に隠して、本人同士に探り取らせる事に致しませう。若し又後で苦情が有っては。」

 大「イヤ貴方の様に管々しい事を仰って居ては日が暮れます。二人立会の上で込めたのだから苦情の有る筈も有りますまい。更に不審に思うなら貴方の込めたのを私共の方へ取り、私共の込めたのを貴方方に上げる事に。それで若し最初の一発で両方とも無事有ったなら二発目は私と藻岸氏とで込めましょう。」

 この様に言って短銃(ピストル)を受け取りつ両方に立ち分かれ、大谷長寿は味方の本人桑柳の許に帰りて、
 「サア支度が調った。アノ藻岸と言う奴が合図をするのだから、君好く注意をしたまえ、一二三と言う一の声で狙いを定めて、三の声で掛け金を落とすのだよ。好いかい。」

 桑「好し好し、分かって居る。」
 大「掛け鉄を落とすのが合図より早過ぎても遅過ぎても恥に成るから、少しも遅速の無い様に。」
 桑「好し好し」

 大「併し又余り合図を気に掛けては了(いけ)ない。大抵の人が合図に気を取られて射損じるから、決して合図の方へ目を向けず、心に敵を狙ひ附け給へ。君は日頃沈着家だから過ちは有るまいけれど、成る可く心を落ち着けて。」
 桑「好し好し決して其の様な所に抜かりは無い。僕はもう充分に覚悟を定めた上だからーーーしかし先程の約束は呉れ呉れも頼むよ。」

 大「好いとも、君が死ねば僕が直ちに森山嬢に逢い、僕の口で知らせても遣り又慰めても遣るけれど、君の勝つ事は僕が請け合う。ここで此の様な事を言っては、嬢を気遣う為、手が震えなどして返って了(いけ)ないから。」

 桑「イヤ未だ願って置く事が有る。僕は上着の内側の衣嚢(かくし)に手帳を入れて、其の中へ書面を挿んで有るから、死んだ後では君、其の書面を読み書いてある通りに仕て呉れたまえ。」

 大「承知だ。併しもう話は止そう。後で緩々(ゆるゆる)と出来るから。それに余り長話をしては臆病者と笑われる。ソレ敵は既に踏み出した。外被(うわぎ)の襟を捲(まく)り上げ、襯衣(しゃつ)の袖口を引っ込ませて、一切の白い所を隠したまえ。爾(そう)だ爾だ、それから未だ一つ言って置く事が。君成る可(べ)くは下の方を狙う様にしなければ了(い)けないぜ。何時でも弾丸は上の方へ反れるから。それに一二と言う二の声でもう徐々(そろそろ)と掛け鉄を引き始めたまえ。」

 桑「心得た。サア行こう。」
 是にて戦場に立ち向かい、双方とも右の肩を少し前に出して敵と正面に顔を合わせ各々短銃(ピストル)を取り上げた。



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