巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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嬢一代   (明文館書店刊より)(転載禁止)

バアサ・エム・クレイ作  黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

since 2013.7.1

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02 嬢一代原著者の書簡

 拝啓、この頃貴国にて最も売高多い某新聞の記者、某氏が伊国(イタリア)の貴族ハピョ・ロオマナイ氏の著に係る白髪鬼伝を訳述したとの由承りました。彼の伝は当国でも出版後、まだ間も無き事と言うこともあって、熱心な読書家の中にも、まだ一読していない人が多いことと見受けられるほどですが、早くも貴国に伝わって貴国人に愛読せられ、しかも人気ある新聞紙が訳出するまでに至っているとは、貴国の文化の度、著しく進歩していることを表すもので、只管(ひたすら)嘆服の外ありません。

 最早、当国に於いて有名な小説、その他の書籍は大抵は貴国に伝わり、貴国人の思想既に当国人の思想と大差無きまでに進んでいる事と遠くから考えているところです。併し彼の白髪鬼伝は、訳者がどの様に訳されたのかは知りませんが、只管(ひたす)らに女の薄情を罵(ののし)ったもので、女を偽りの動物と為し、男子の幸福を盗み去る怪物と為し、操も無く徳も無く、ただ人を欺く事のみ知って、少しも取る所の無い者のように貶(けな)し付け、十九世紀の婦人をして世間に向ける顔も無いまでに傷(いた)め付けたものですから、訳者もきっとその通り訳した事と存じます。

 婦人は神聖である。女は創造物中最大の美徳である。男子の生涯の慰撫者であるなどと言う諺も有る程なのに、この様な書を著して女を罵(ののし)るとは誠に不埒千万(ふらちせんばん)の次第で、当国の婦人社会には既に著者を罵(ののし)り、彼の書を絶版にして充分謝罪させようかなど、評議する方も多いように見受けられます。

 貴国の訳者は何という人であるか聞き漏らしてしまいましたが、きっとハピョその人と同じく、余り女には愛せられず、女に対して非常な遺恨を持っている人に違いないと推量致しております。(涙香言う、読者よ余は地にも入りたい心地がする。)

 ハピョ的な同類の御人物が、ご自分の悔し紛れに、暗に復讐の意を以って、どの様に彼の書を訳述されようとも、吾等の歯牙に掛けるには足りないことですが、吾等はご存知の通り、兼ねて女流の位置を高めようと尽力している者ですので、ハピョ的な同類の人物が、一人でも半人でも殖(ふ)え来たり、女を罵(ののし)る言葉の一言でも半句でも多くなるのは、甚だ深く憤るところです。

 幸い貴君は当国にも来り、吾等の知己にして、又吾等と女流の位置を高めるための目的を共にしますので、貴君の御取次ぎで、訳者と同流の、日本人に読ませ度い書類が数多く有ります。吾等の考えでは、不実不徳は決して女のみに有るのでは有りません。男には一層多い事で、之が為女を欺き、女の生涯を誤らせることは、決して女が男の生涯を誤らせるのに劣らずと存じます。

 徳義も作法も弁えぬ下等人種ならば兎も角、紳士とも、貴族とも言われ、世の手本と立てられる人にして、まだこのことがあるのは許し難い事では無いでしょうか。依って吾等は白髪鬼伝を読んだ日本の愛読者に示したい書数種を選び、貴君まで御送り申し上げるところです。

 勿論小説などの如き仮設の物語では有りません。総て目下依然として人々の口に膾炙(かいしゃ)する実在の伝記ですので、貴君そのお積りで然るべく日本人の目に触れますようお取り計らい下さい。

 実は白髪鬼の訳者にも送り度と存じますが、その名もその住所も存じません。或いは送り届けた所でどうせハピョ一類の人ならば、目を通す事もないだろうと予想し、貴君の御取り計らいに任すことと致します。何分にも宜しくお願い申し上げます。謹言

            ロンドンにて貴君の親友 W  T  升

長崎なる  丸山君



※注 人口に膾炙する・・・・広く知れ渡る

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