nyoyasha01
如夜叉(にょやしゃ)
ボアゴベ著 黒岩涙香 翻案 トシ 口語訳
since 2012. 4.7
下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください
更に大きくしたい時はインターネットエクスプローラーのメニューの「ページ(p)」をクリックし「拡大」をクリックしてお好みの大きさにしてお読みください。(画面設定が1024×768の時、拡大率125%が見やすい)
如夜叉 涙香小子訳
原文の調子を味わって戴くため原文記載
(零) 如夜叉叙
外貌優柔にして内心残忍なるもの佛家はこれを外面如菩薩内心如夜叉という。窈窕(ようちょう)たる淑女花のごとく玉のごとくにしてしかもその心ざま正しからず。天地なお容(い)るべからざる罪悪を犯すことこの編に於けるが如きものあるはそもそも不可思議というべし。しかれども吾(わ)れこれを聞く、大悪は至善に似たりと。世に極悪非道を行へるものにして、その容姿の優美なりしこと男女その例証に乏しからず。これ大悪を為すものは必ず人に優れたる才智を有し巧みに外面を装いて人を瞞(くら)ます力あり。人智の優劣はもと善事と悪事との区別に拘わらず。故に時としては悪よく善に勝つことあるなり。しかりと雖(いえども)人智は只人を欺くべし。天をバ欺くべからず。ここを以(もっ)て悪因あるもの必ず悪果を受けて天刑を免るること能(あた)はず。これ千古不変の定理にして、人智の進歩もこれを如何(いかん)ともすべからざる所以なり。嗚呼天なる哉(かな)。
明治二十四歳十一月下浣 在天生
注
- 窈窕(ようちょう)---淑やかで奥ゆかしい様子。
- 瞞(くら)ます-------だます。あざむく。
口語訳
如夜叉(にょやしゃ)
(零) 如夜叉叙
外面が優しく温和で内心残忍なるものを仏教ではこれを、「外面菩薩の如く内心夜叉の如し」という。
淑(しとや)かで奥ゆかしい淑女が花のようであり玉のようでもあってしかもその心のありようが正しくなく、天地が決して容認しないであろう罪悪を犯してしまうこの編に於けるような事があるのは、そもそも不可思議というべきである。そうではあっても私はこの話を聞き、大悪は最上の善に似ていると思った。世に極悪非道を行った者で、その容姿が優美であった男女の例は乏しくはない。確かに大悪を行う者は必ず人に優れた才智を有し、巧みに外面を装って人を欺(あざむ)く力がある。人智の優劣は元々善事に使うから優れており悪事に使うから劣っていると言う区別が有ったわけではない。だから時としては悪が善に勝つこともある。そうとは言っても人智は只人を欺くことだけに使うべきだ。決して天を欺いてはならない。この原則から悪い結果を起こす原因のある者は必ず悪果を受けて天刑を免るることはできない。これ千古不変の定理にして、人智の進歩もこれを如何することもできない。嗚呼(ああ)天は偉大だ。
明治二十四歳十一月下旬 在天生
a:964 t:1 y:0