巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume108

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.4.18

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         (百八) 何の権利も無い人

 古江田利八の子孫が、見付かったので無ければ、谷川弁護士が故々(わざわざ)来る筈も無く、又此の様な事を言う筈も無いと、網守子が見抜いたのは、当たって居るらしい。けれど谷川弁護士は、そうとも白状しない。

 「イヤ、子孫が見付かったか否かは第二として、私は色々研究しましたが、あの紅宝石(ルビ-)が、貴女の所有と云うことは、私の時計が、私の所有と云うのと同じことで、此の国の法律上、立派な権利で、少しも疑いが有りません。其の様な立派な財産を、人に無貨で与えると云うことは、私弁護士として、貴女の財産の保管を託されて居りながら、決して賛成することが出来ません。」

 網「古江田利八の子孫が現れましたか。未だ現れませんか。其れを先ず聞かせて下さい。」
 谷「イヤ、仮令(たとえ)其の子孫が現れて出た所で、其の子孫は、貴女へ対し、先祖の所有品を引き渡して呉れなどと要求する権利が、毛ほども無いのです。権利も無く証拠も無く、証人も無くーーー。」

 網「証拠は、あの紅宝石(ルビー)の入った、鰐革の袋です。現在の品物が、何よりの証拠では有りませんか。証人は私です。彼(あ)の品は、決して私の物では無く、古江田利八の子孫の品だと、私が証言します。」

 谷「貴女は、直接に何事もご存知が無いのです。数十年前の、古江田利八を知って居るでも無し。利八が、鰐革の袋を首に掛けて、海から救い上げられたのを、見た訳でも無し。」
 網「イイエ、私を育てて呉れた、高祖母(ひいおばあ)さんが見たのです。見て私へ話し、之を古江田利八の子孫に返せと、私へ言付けました。」

 谷「所が其の老夫人は、唯だ音楽の音に浮かされた瞬間に、譫(うわ)言の様に、其の様な事を口走るのみで、平生は昏睡状態に在ったのです。証言にも証拠にも成りません。」
 網「其の様な事は、何うでも構いません。何があっても、彼(あ)の品を、古江田利八の子孫に、返さなければ成らないのです。」

 谷「けれど、誰にも与える義務の無い品を、----、而も其の品の時価が、今は幾十万円するか分からず、其の上に、年々に騰貴しつつあるのです。其の様な大いなる財産を、故なく人に与えることを、私が賛成しては、第一貴女への不親切と成り、私の営業上の習慣にも背きます。其れ故、今日は、彼(あ)の品に対する貴女の権利を、十分にお知らせ申して、先祖伝来の貴重品を、大事に成さるように、ご忠告に参ったのです。」

 網「けれど実際に、古江田利八の子孫が現れたので無ければ、貴方が故々(わざわざ)其の様な事を忠告に、お出で成さる筈が無いと思います。谷川さん、其の子孫が現れたのですか。まだ現れないのですか。」
 谷「現れようが、現れまいが、其の様な事は関係が無いでは有りませんか。現れたとしても、何の権利も無い人ですもの。」





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