巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (百二十五) 何(ど)うして出る

 網守子は、何うしても此の部屋から、逃げ出さなければならないと思ったけれど、何うして逃げ出すことが出来よう。錠を卸(おろし)た部屋の中で、その鍵は江南の衣嚢(ポケット)の中に入れて居る。
 其の中に、早や江南が、抱きすくめる様な姿勢で進み寄った。網守子は、絶対絶命の場合と思い、又叫んだ。

 「私の身に指一つでも触(さ)われば、貴方は後悔なされますよ。」
とは云え、何の様にして彼れを懲らすと云う、工夫の有る訳では無いけれど、若しも彼の手が自分の身体に触れたなら、我が怒りの火を以ってでも、即座に彼を焼き殺そうと云う程に、立腹の色が見えた。江南は少し躊躇(ためら)い、

 「網守子さん、誰が見て居ると云うでは無し、何も其の様にお怒り成さるには及びませんよ。先ず静かにお考え成さい。此の通りの場合と為り、私の妻と為ることを承諾するより外に、何の道が貴女に在ります。貴女が潔く承諾成さるまでは、此の部屋の戸は開きませんよ。」

 更に網守子は、何にかして此の部屋を出たいと考えつつも、
 「其の様な脅迫で、私の心を挫こうと成さるのは間違いです。私は貴方の妻に成るより死ぬ方を選びます。」
 江「死ぬなどとは、唯口先ばかりの事です。私は其れを信じません。死のうと云った所で、死ぬ手段さえ無いでは有りませんか。私も男です。既に部屋の戸に錠を卸し、貴女捕虜同様にした上は、自分の目的の達する迄は、決して後へ退きませんよ。若しこのままに貴女を外に出して御覧なさい。貴女が何の様な復讐を成さるかも知れません。貴女が決して復讐うをしないと誓った上でなければ!」

 網「ハイ、復讐などは致しません。」
 江「復讐をせぬと云う確かな証拠は、私の妻に成ると約束する外には在りません。愈々復讐をしないならば、妻に成ると約束なさい。」
 網守子は、もう破れかぶれと云う様な心に成り、悪人!悪人!」
と罵(ののし)った。

 江南は又諭(さと)す様に、
「貴女はもう他の人の妻には成れません。或いは心の裡(うち)で、誰れ某(そ)れの妻に成ろうと、定めてお出でかも知れませんけれど、この部屋を出れば、最早や貴女の名の汚れの為め、ーーーー。」
 網「私の名は此の様な事では汚れません。」

 江「貴女の強情には驚きますよ。何で貴女は此の江南の妻に成ることを、其れほどお嫌がり成さる。貴女が何うしても承諾しないとならば、私は何うしても承諾させます。」
と云い、又も手を広げて進み寄った。

 今度こそは天変地異でも起らなければ、逃れる道は有るまいと思われたが、此の時、天変地異よりも、もっと驚くべき出来事が起こった。イヤ起こったのでは無い。殆ど開闢以来、類が無いだろうと思われるほどの、思いもよらない出来事を、網守子が仕出来(しでか)した。

 島の娘 初篇 終わり





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