巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.5.10

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         (百三十) 新しい幽霊を

 何うして添子が四万円(現在の約四千万円)と言う大金を得たで有ろう。江南は嬉しくも有るけれど、不審に思えて仕方が無い。
 「和女(そなた)は何して此の金を得た。網守子からでも借りたのか。」
 添子は何だか此の問いを避ける様子である。
 「イイエ、借りた金では無く、自分の金です。」
 江「でも今まで無かったのが、急に出来たのは不思議では無いか。」

 添「ですが、貴方だって一々自分の金の出所を説明は成さらないでしょう。」
 全く江南の金には、人に説明出来ないのが多い。江南はぐっと詰まった。添子は念を押す様に、
 「ご安心なさいよ。貴方が金を得る手段よりも、劣った手段で得たのでは無いのです。」
と妙に意味有りげに言い回し、

 「何にしても、私は貴方と同等の身に成りました。貴方と同等の手段で金を得ました。若し貴方が気に掛かるならば、私に大金持ちの伯母さんがあって、其の遺産が転がり込んだとでも、お思い成さい。其れとも、貴方は此の金を使わないと言うのですか。」

 江南は慌てて、
 「イヤそうは言わない。」
 添子は宛(あたか)も、主人の地位に立った様子と為り、
 「けれど、金だけでは此の難場は凌(しの)げないでしょう。貴方は雑誌を何うします。次号の紙上へ、誰の書を入れ、誰の詩を載せ、誰の小説を掲げますか。」

 成るほど、金だけでは事が足りない。江南はハタと詰まり、
 「サア、もう廃刊して職業を転じでも仕ようか。」
 添「貴方は今までに得た天才の名誉が、惜しくは有りませんか。」
 江「惜しい、惜しい、其れは全く惜しい。と言った所で・・・・・」
 添「ですから、私の指図にお従い成さいと言うのです。」
と言って更に添子は打ち解けた調子と成り、且つ真情を打ち明ける様に、

 「私が此のお金を手に入れたのは、一通りの辛い思いでは有りませんよ。其れに付いては、此の後の事まで様々に考えました。折角今まで貴方の築き上げた名誉を崩(くず)しても成らず、何うか此の金を以って更に新しい幽霊を捕らえて来てーーーー。」

 江「エ、幽霊?新しい幽霊?」
 添「そうです。路田梨英だとて柳本小笛だとて、皆貴方の為の幽霊では有りませんか。貴方は旨(うま)く幽霊を使って、其れで自分の天才を作って居たでしょう。」
 江「そうだ。そうだ。彼等は悉く江南の影に隠れる幽霊だ。」
 添「今は古い幽霊が消えて了(しま)ったから、至急新しい幽霊を揃えなければ成らないでしょう。」

 江「其れは全く其の通りだけれど、新しい幽霊は手に入らない。」
 添「其れだから、黙って私の指図にお従い成さい。私は幽霊の居る所まで知って居ます。」
 江南は有難涙を出す様な男では無いけれど、殆ど出し兼ねない程の様で、

 「新しい幽霊は何処に居る。何処に居る?」


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