巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume138

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.5.18

下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください

文字サイズ:

         (百三十八) 又アノ網守子?

 江南は熱心に、
 「無論私の心底から感謝しますが、併し其の品物は何ですか。何して現れて来ましたか。」
 谷川弁護士は、中々味を遣る人である。宛(あたか)も、小説家が或る事柄の筋道を述べるが如く、成るだけ大事の点を後に廻し、先ず気を揉ませて置いて、後に喜ばせると言う順序を取り、妙に迂遠(まわりくど)く、少しづつ話して行く。

 「そうだね。何の品と一口には話し難い。言わば海の底に沈んだ宝が、波に打ち揚げられたとでも言う様な次第さ。到底回復の出来ないと極まって居る品物が、不意に回復せられと、先ずこう思い給え。」
 果たして江南は、ジレったそうに、

 「貴方は謎の事の様な事を仰る。」
 谷「そう急ぎ給うな。終わりまで辛抱して聞く値打ちは有るよ。先日も君に聞いたが、君の祖母(おばあ)さんは、誰の娘だとか云ったねえ。」
 江「古江田利八の娘です。」
 谷「其の名は。」
 江「竹子と申しました。」

 谷「詰まり其の竹子の父、古江田利八から伝わる様な者だから、君は古江田利八を尊敬もし、記念しなければ成らないと言う者だ。」
 江「記念しますとも。生前に於いて、財産を作った人を私は尊敬します。取分け其の子孫へ、財産を残したと有れば、子孫として其の人を記念するのが当然です。」

 谷「けれど古江田利八の遺産が、今更転がり込もうなどと、君は夢にも思わない筈だ。」
 江「夢にも思って居ませんでした。」
 谷「此の利八が、若い頃に印度に行ったと言う事だけは、君も聞き伝えて居るとの事であったが、印度で多少の財産を作ったと言う事を、君は聞き及んだのか。」

 江「イイエ聞き及びません。」
 谷川は益々油が乗った調子で、
 「此の利八は、中々働き人で有ったと見え、印度からビルマ辺までも行き、其の国の国王の気に入られ、褒美や報酬として、少なからぬ賜物が有った、当時は銀行も無く、為替の方法が無い為、成るたけ持ち運びに便利な様に、宝石類を買い集めた。」

 江「ハハア、其れは面白い話ですねえ。」
 谷川はニコニコして、
 「面白いとも、此の話の終わりの方は、モッと面白いよ。君に取っては取り分けさ。先ず聞き給え。其れから其の宝石類を鰐革の袋に入れ、自分の首に掛けて、此の国へ帰る船に乗った。シタが此の様な話が君の家に伝わっては居ないのか。」

 江「ハイ、今聞くのが初めてです。」
 谷「そうで有ろう。其れから其の船が、イヤ船の名は無論君は知ら無いだろうね。」
 江「知る筈が有りません。」

 谷「其れは印度丸であった。所が其の印度丸が、此の国の近海まで来て、紫瑠璃(Seilly)群島の間で難破し、貨物も乗客も残らず沈没したが、独り古江田利八だけが、今の寒村嬢の先祖に救われた。」

 江南は驚いて、
 「エ、網守嬢、又アノ網守嬢ですか。」
と何だか恐ろしそうに顔の色を変じた。



次(百三十九)へ

a:95 t:1 y:0

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花