巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume139

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.5.19

下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください

文字サイズ:

         (百三十九) 私の曽祖父

 江南は自分の運命に、何故こうまで、網守子が付き纏(まと)っているのだろうかと、殆ど恨めしい程に思った。自分の詩も(イヤ実は他人の詩)自分の画も(これも他人の)自分の小説も(同じく他人の)総て網守子の為に根こそぎ妨げられてしまった。今此の古江田利八の遺産の事にも、又網守子の名が出て来るとは、何と言う廻り合わせで有ろう。

 しかし谷川弁護士は、江南の心の底まで見て取ることは出来ない。江南の変わる顔色には頓着せず、
 「そうさ、寒村(さむら)嬢の先祖だよ。先祖の何某が、殆ど死骸同様に成って居る古江田利八を、海から救い上げて、介抱して到頭蘇生させた。所が利八の首に掛けていた鰐革の袋は、何時の間にか無くなった。

 難船の際に波に浚(さら)われたのか、或いは其の他の原因か、其れは分からない。何んにしても、印度から遥々と持って来た自分の財産が、其の鰐革の袋に入って居て、其の袋が紛失した者だから、利八は元の木阿弥と言う姿で、悄々(すごすご)其の島を立ち去った。」

 谷川は之まで云って、宛(あたか)も小説家が、一回の終わりに達して、以下次号と言う様に言葉を止め、時計の鎖りを弄(いじ)りながら、聴き手に何の様な感動を与えたかと、ジッと江南の様子を見た。多分時計の鎖は、此処へ鳴り物を入れると言う積りで有ろう。

 江南は気が急(せ)く様に、
 「其れから何うしました。」
 谷「何しろ鰐革の袋」が跡形も無く為った為め、再び奮闘を繰り返す外は無く、其れから此のロンドンへ来て、数年の後に株式仲買になり、又も多少の財産を作った。其れは第二回の財産で、其々子孫へ伝わった筈で有るが、一回の財産、即ち鰐革の袋は、全く消滅したと同様で、其の話さえも子孫に伝わって居ないのだ。子孫の中で比較的に物知(ものしり)であるべき君さえ、其の話を聞いて居無い所を見れば、先ず第一回の財産は、回復の道も無く紛失した者と言わなければ成らない。」

 江南は略(ほ)ぼ合点が行ったのか、又も熱心を加えて、
 「けれど貴方が、海の底から、何やら打ち揚げられた様に、仰ったでは有りませんか。」
 谷「先ア、早まり給うな。其れから、今より五年前に至り、網守子が寒村家を相続することに成り、自分の家の中を、悉(ことごと)く検(あらた)めて見ると、古い宝物箪笥の底から、一個(ひとつ)の鰐革の袋が現れた。」

 江「アア其の嚢(袋)が、私の曽祖父の第一回の財産です。」
 今まで古江田利八と云ったのを、今は私の曽祖父と言うのは、中々抜け目の無い言い方である。
 谷「そう君の様に、直ぐ結論へ飛んでは困るよ。網守子が其の嚢(袋)を開いて見ると、中に数個の紅宝石(ルビー)が有り、又、波に揉まれて字体も分からない、一枚の紙も有った。紙に記した名は、「古江田利○」とある許かりで、利八だか利何だか、それは分からない。」

 江「イイエ、分かって居ます。其れは利八に極(きま)まって居ます。」



次(百四十)へ

a:108 t:1 y:0

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花