巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (百六十八)  何故か添子の驚き

 
 今迄は喜びに夢中であったが、一順喜びが骨身にまで浸み込んで了(しま)うと、謂(い)われ因縁を聞き度くなる者と見える。添子が、
 「誰から何うして得た。」
と聞くのは自然の順序であるらしい。

 是も江南は勿体を付けたい様な容態で、
 「全体私の家筋は、活発に働き、大いなる財産を作る様な血筋だと見える。随分世間には、親から大なる財産を譲られ乍(なが)らも、其れを無くする様な人も有る。私の血統は其の様な活智(かつち)の無いのとは正反対だ。

 たとえ無一物で世の中へ投げ出された所で、自分の勇気と自分の活動とを以って身代《財産》を作り出す。是が特徴であるらしい。」
 果たして其れが特徴ならば、此の江南の様に、他人の働きを我物とする様な男が、何うして出来ただろうと怪しみ度くも成る。けれど江南に言わせると、其れさえも矢張り自分の働きかも知れない。他人の戸籍を切り取ることまで、自分がしたから矢張り自分の働きである。

 添「では矢っ張り、先祖の遺産ですね。」
 江「法律上で言う遺産と幾分の相違は有るけれど、遺産には違い無い。」
 添「爾(そ)うすると矢張(やっぱ)此の蛭田家の誰かから。」
 江「イヤ違う。違う。蛭田家の人では無い。蛭田家へ嫁入って来た私の祖母(おばあ)さんの父親なんだ。」

 添「では貴方の母方の親類から」
 江「爾(そ)うだ。爾うだ。母方の親族が稼ぎ溜めたのだ。」
 添「良く世間で云うでは有りませんか。母方の血筋から転がり込む財産は、何うかすると争いに成るなどと。」
 江南は最う微懼(びく)ともしない。

 「此の身代《財産》に限って争う人は決して無い。」
 彼は筆捨市まで行って、争う可(べ)き相手の戸籍を切り捨てて来たのだから、最早自分と争う者は、金輪際有り得ないと大安心をして居ると見える。
 添「では貴方が一番血筋の近い後裔ですね。」
 江「爾(そ)うだ。爾うだ。」
 彼は又二つ返事の癖が出て来た。

 「私が一番血筋の近い嫡流(ちゃくりゅう)なんだ。」
とは言い切ったけれど、自分で嫡流で無いことを知って居るだけ、何か気になる所でも有るのか、更に言葉を補って、
 「此の財産が少し遺産とは訳が違うと言うのは其処の事だ。通例の遺産では無く、幾分か自由贈与と言う意味を帯びて居るから、法律上、私と争う口実は誰も持って居ないのさ。たとえ私よりズッと血筋の近い人が有るにした所で、私と争う理由が無いのだ。」

 添「本当に有難い事ねえ。其の様な財産を残して、貴方を不意に百万長者にして呉れた其の方は、私にも恩人です。其の名前を聞かせて下さい。」
 江「其れは古江田利八と言うのだ。」
 添「エ、エ、古江田利八?本当に?古江田利八と言うのですか。」
 何故だか、古江田利八と言う名に、添子の顔の色が変わった。



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