巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume169

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.6.19

下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください

文字サイズ:

        (百六十九)  紅、紅、紅宝石

 古江田利八の名を聞いて、何故に添子が驚くのであろう。
 何か添子と「古江田利八」と云う名前との間に、因縁が有るのでは無いだろうか。先頃網守子が、鰐革の嚢(ふくろ)を、古江田利八の子孫に返したと話して聞かせた時も、添子は何の為であるか、聞くと同時に気絶した。尤も其の時は病気の際であった故、或いは病気の為に気絶したのかも知れない。但し其の晩に添子は網守子の家(うち)から立ち去ったのであった。

 添子の驚く様が江南の目にも附いた。彼は直ちに問うた。
 「オヤ和女(そなた)は、古江田利八と云う名を聞いたことでも有るのか。」
 添子は、
 「イイエ、イイエ」
と首を振った。
 江「では何を其の様に驚くのだ。」

 添「何も驚きはしませんよ。余り不思議なイヤ有難い話ですから、ツイ心が騒いだのです。先(ま)ア早く其の後を聞かせて下さい。」
 江「そうだな。実に不思議な!実に有難い事である。詳しく話せば長い事だが、大体だけを話して聞かそう。」

 添「ですが其の人の財産が、今迄隠れてでも居たのですか。」
と今は何気も無く問うけれど、何やら心の底に、大なる或る者を、推し隠して居るらしい。
 江「先ア静かにお聞き。先日谷川弁護士から、何か転がり込む品物が有る様に言い聞かされ、ツイ一万円(現在の約一千万円)か其処らの物だろうと想って居たが、愈々(いよいよ)引き渡されることに成り、良く聞くと今云う通り、八十万円以上の品さ。

 是は私の曽祖父(ひいじいさん)に当たる、今云った古江田利八が稼ぎ溜めたのだけれど、難船の為に海の底へ落としたと見える。其の時紛失して居たが、其れを其の後、海底からか海浜からか拾い上げた人がある。其の人の子孫が私へ返して呉れたのさ。」

 話す間(うち)に添子の顔は青く青く成って行く様に見えた。今は殆ど問返す声も出ない様子である。
 江南は語を転じ、
 「私が不思議と云うのは、其の返して呉れた当人が、実に、実に意外な人だ。和女もきっと驚くで有ろう。彼の網守子だよ。網守子が其の宝を保管して居て、私へ返して呉れた。」

 網守子と聞き、添子は宛(あたか)も発条(ぜんまい)に跳ね上げられた様に飛び上がって、
 「エ、何ですと、網守子ですか。」
 江「爾(そう)さ、だから不思議だと言うのだ。此の私へ、仇ばかりする様に見えた彼の網守子が、私へ此の様な幸福を授けて呉れるとは。」

 添「シタが、其の財産と云うのは何ですか。早く、早く、早く其れを聞かせて下さい。何ですか。」
 添子の様子は全く只事で無い。
 江「鰐革の嚢に入れた沢山の紅宝石(ルビー)だ。」
 添「エ、エ、紅、紅、紅宝石?イエ、イエ、他(ほか)の品(もの)、他の品ーーー紅宝石では無いでしょう。」
 添子は全く我を失った様である。抑々(そもそも)何故の驚きであろう。


次(百七十)へ

a:96 t:2 y:0

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花