巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (百八十) 各々の誕生日を
 
 鰐革の嚢を如何に処分するかは、江南に取って実に厄介な問題である。
 自分ら夫婦の行いが、嘘で固めて有る為め、今更彼の紅宝石(ルビー)を何う処分したとしても、到底円満な大安心と云うことは得られない。本来、嘘と云う奴は、何所かに不都合の残る者である。

 けれど、其の中で、比較的に大安心ーーーらしく思われるのは、彼の紅宝石(ルビー)と全く縁を切り、真の無関係と為るのが一番である。障らぬ神に祟り無しだ。イヤ既に障った後である。けれど此の上に障らない様に、ソッと谷川弁護士の金庫の中へ寝かしたまま捨て置くのが好い。

 江南がこの様に考え定めるには、数日を要した。其の間添子は、彼が何を考えるかと怪しんだ。勿論添子は江南が其の実、真の受取人で無いと云うことも知らなければ、戸籍切り取りの如き大罪を犯した事も知ら無い。取り分けて、他日他の人に要求せられて、返却しなければ成らない様な、危険が有ろうとは、露ほども添子の心には浮かばない事柄である。

 若しも、返却しなければ成らない場合とでもなるならば、贋(にせ)の紅宝石(ルビー)の代わりに、真の紅宝石を返さなければ成らない。そうで無ければ百萬円の本物を、三百円の贋物に摺り替えたと云われる。其れは余りに愚である。江南の決心も無理では無い。

 幾日の後、彼は谷川弁護士を、其の事務所に尋ねた。彼は何気無い顔色を装って居るけれど、先日の大失望が、未だ顔や面から全く消えては居ない。谷川は喜び迎えた。けれど怪しんで、
 「君は病気でもしたのか。非常に顔の色が悪く、オオ、眼まで窪んで居るぜ。僕は彼(あ)の翌日にも、君が紅宝石(ルビー)を受け取りに来るだろうと思って居たのに。」

 江南は此の機会を利用して、転んでも唯は起きない、平生の主義を発揮する積りである。
 「ハイ、病気も病気で有りましたが、先生、私は実に大いなる誘惑に罹(かか)りました。」
 谷「エ、大いなる誘惑?」
 江「ハイ、貴方から八十萬円以上も価のする紅宝石を贈ると云われ、自分の物で無いのに、其れを受け取らうかと思いました。」

 谷「何で自分の物で無い。」
 江「先生、私は、彼の時には自分の祖母竹子が古江田利八の第何女であるか良くは知らず、貴方からの第二女と云われるが儘(まま)に、第二女だと思いましたが、其の後、念の為と思い、良く検めて見ると、私の祖母竹子は利八の第二女では無く第三女ですよ。其れだから私は彼の紅宝石(ルビー)を受け取るべき筋でないのです。」

 谷川は驚いて、
 「竹子が利八の第三女?其れには何か確証が有るのか。」
 江「ハイ、私の家に在る古い聖書の表紙裏へ、竹子が自ら自分の素性を書き入れ、古江田利八長女松子。二女梅子、三女竹子と記し、各々誕生日を書き附けて有ります。」
 谷「成るほど其れでは明白だ。」


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