巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (百八十五) 猛烈な反感

 
 頓(やが)て谷川は言葉を用談に移した。
 「今日来ましたのは、先日お話しの彼(あ)の紅宝石(ルビー)が、貴方の所有に帰することと成った為です。」
 梨英は聊(いささか)か驚いて、
 「エ、彼(あ)の鰐革の嚢の?」
と問返したけれど、既に一度失望して凝りた後である為、飛び立つ程には思わない。更に、

 「彼(あ)れは相続では無く自由贈与で有るとの説明で、私は自由贈与ならば、受けないとお断り致しました。」
 谷「其れはそうです。けれど、自由贈与とは云うものの、受けて恥ずべき様な、慈善的な贈り物とは違い、矢張り貴方の先祖古江田利八が、稼いで得た財産ですから、貴方は子孫として、感謝をして受けるべきです。以って唯だ厳重に法律上の意味から云えば、既に引き渡せと主張する権利が無いと云うに止まります。何の顧慮にも及びません。お受け成さい。」

 受けよ受けよと勧めるけれど、其の実、既に実物が無くなって居る。谷川は其れを知らない。愈々(いよいよ)梨英が受け取る事と為って、実物が無いならば、谷川は何うするで有ろう。梨英は又考えて、成るほど慈善を受けるのとは違いましょうか。其れならば受けもしますけれど、先日貴方は、既に蛭田江南の物と成った様にお話しでしたが。」

 谷「ところが、其れが間違いでした。江南の祖母竹子は利八の二女で無く三女だと分かりました。二女は貴方の祖母梅子です。其れ故貴方が受け取るべきです。」
 梨英の顔には包み切れない嬉しさが現れた。私の祖母が利八の第二女である事は、筆捨(ペンブローク)市の戸籍面に明白です故、私は先日も貴方へ爾(そ)う申しました。」

 谷「爾です。其れを私が何かの間違いで有ろうと思ったのは、今更申し訳の無い過失でした。」
 梨「真に私が受け取って、誰にも恥べき筋で無いならば、私は深く感謝します。けれどーーーー江南はきっと失望するでしょう。」
 谷「イヤ、江南は感心です。自分から申し出ました。自分の祖母竹子は利八の第二女で無い。第三女で有る為め自分は辞退すると言って。」

 梨英は更に、更に驚いて、
 「エ、江南が自分から?辞退したと云うのですか。其れは意外です。果たして其の紅宝石(ルビー)に幾等でも金銭的な値打ちが有るならば、江南が辞退する筈は無いと思いますが。」
 谷川は益々合点が行った様に思った。確かに梨英と江南との間には、互いに嫉妬心だか憎しみだか、猛烈な反感が横たわって居る。丁度江南が梨英を悪し様に云った様に、梨英は江南を悪し様に云うのである。

 谷川は殆ど容(かたち)を改める程にして、
 「イヤ、江南の辞退は実に近来の美談です。貴方も江南の正直を認めなければ成りません。」
 梨英「辞退したのは正直で有るかも知れませんけれど、江南を正直な人物と認めることは、私には出来ません。」


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