巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (百九十七) つかつかと警官が

 網守子と分かれて都に帰った路田梨英は、我が家に入るより前に、先ず捨部竹里を訪ねた。竹里に一応自分の画を見せ、其の批評を聴く為である。
 竹「オオ、あの絵が余程旨く書き上がったと見えるね。君の顔は、何時に無く満足そうに輝いて居る。」
 梨「捨部君、君だから話すが、僕は意外な幸運を得たよ。思いも寄らない先祖の遺(のこ)した宝が有って、僕の所有に帰することと為ったが。」

 竹「イヤ其れは目出度い。何れほどの高だね?」
 梨「五十万円(現在の約5億円)以上の値打ちだと云うことだ。今は谷川弁護士が保管して居る。」
 竹「五十万円以上?其れは非常な幸運だ。イヤ確かに君の顔に其の事が浮かんで居る。」

 梨「其れに、寒村網守子と結婚の約束が出来た。」
 捨「其れは勿論の事、僕だけは予期して居たが、何にしても君ほどの幸運は、僕の知る範囲には無い。僕は祝しもするが驚いたよ。」
 梨英は竹里の様な親友には、打ち明けずには居られないほど嬉しい。

 「併し多少の名を為すまで結婚はしない積りだ。何にしても一生懸命に画の腕を研かなければ成らない。」
 竹里は笑いながら、
 「もう画など書く必要は無いだろう。」
 梨「イヤ益々上達しなければ。」

 竹「成るほど其の心は良く分かって居る。網守子の様な大金持ちを妻とすれば、益々励まなけれ成らない訳だよ。併しもう是からの君の前途は、全く順風に帆を揚げた様な者だ。世間の方で騒ぎ立てて、君を大家にして了(しま)うよ。」

 梨「何にしても僕の画を見て呉れたまえ。」
 竹里は梨英の誘うが儘(まま)に、連れられて梨英の画室に至った。梨英は自ら書き揚げてある絵の白布を引き除けたが、自分ながら素晴らしい出来だと感極まり、無言の儘に見入った。竹里も同じ無言の儘に見て居たが、頓(やが)て、
 「是で君の画家としての地位が確定した。」

 梨「何の様に。」
 竹「現代第一流さ。」
 梨「そうだろうか。」
 竹里は少しの間何事をか考えて、
 「君の画は、今まででも現代第一流では無いか。他の人は知らないけれど、学友に居る時から、君を知って居る僕の目には、争え無いよ。君の絵が蛭田江南の名でーーー。」

 梨「君は其れを知って居るか。僕は実に面目無い。」
 竹「面目無いのは江南の方だ。君では無い。けれど僕は誰にも此の様な事は云わないから安心し給え。若し江南の絵を、其の実君の画だと看破出来ない様なら、僕は批評家と云われる資格が無い。」

 梨「流石に君の眼力は豪(えら)い。けれど僕が江南の為に幽霊を勤めたのは、色々事情の有ることで。」
 竹「其の事情などは聞くには及ばない。この頃は江南も自ら画風を替えるなどと称し、雑誌の体裁まで変じて了(しま)ったから、僕は密かに笑って居た。」
と云う所へ、つかつかと一人の警官が入って来た。

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