巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume20

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.1.21

下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください

文字サイズ:

 
            (二十) 「四、五〇,〇〇〇〇円」

 鰐革の此の嚢(fふくろ)の中に、何が入って居るのであろう。網守子は怪しみつつ開いて見た。
 中には、絹の袱紗(ふくさ)《絹、縮緬などで作った小型の風呂敷》に何物か包まれてある。勿論袱紗も余程古びて居る。
 更に其の袱紗を開くと、無数の小石と一枚の反古(ほご)かと見える紙が出た。

 小石は赤色を帯びて居るが、別に珍しいとも思われない。網守子の目には、浜辺の砂の中に幾等も見出される赤石と、大した違いは無い。其の中の一番大きなのは直径七、八分(2.1cmから2.4cm)も有らう。小さいのは小指の頭ほどである。

 「オヤオヤ、此の様な者が何で宝と云われるのだろう。」
 紙には、面に文字がある。けれど余り年を経たのと、海水に浸された為であろう、良くは読め無い。
 又ところどころは破れて居る。其れでも網守子は、拾い読みに読んで見た。

 「此のルビーは・・・・・の忠勤に対し・・・・・国王の・・・・・余に賜う(たま)う所となり、最も大なるは如何に安く見積もるも・・〇〇〇〇〇円の価値あり・・・余が血を以て・・・・殆ど・・・・よりも貴し・・・第二の大なるは・・・・鉱の産出にして是れ又余が正直・・・結果な・・・・
 小なる・・・・一個一万・・・以上・・・・必ず・・・・余の子孫に伝へん。
   …月・・・・古江田利・・・・
  総計・・・・・・円以上の見積もり
 
 何の事やら良くは分から無いけれど、此の石が未だ磨かざるルビーであることと、見掛けに由らぬ非常なる値の有ることは、網守子にも察せられた。
 「アア是だけは他人の物だから、猶更大事にしなければいけない。」
と云い、元の通り包んで嚢に納めた。

 彼(あれ)と云い是と云い、唯驚くべき事ばかりなので、網守子は頭の中が混雑した様に感じ、少しの間窓に行き、幕を少し掻き排(ひら)いて海の方を眺めた。

 其の中に、漸く心も落ち着いたので、幕を閉じて再び此方に振り向いて見ると、外の明るさに少し眩(くら)んだ眼にも、テーブルの上に、山の様に盛り上がって居る金貨の光は、格別だ。床に取り出してある八十の袋も、追々はっきりと見えて来た。実に何と云う驚くべき眺めであろう。
 是だけが総て自分の物、自分一人の物、金貨のみでも四、五十万円(現在の4.1億円から5.1億円)、全く夢の様である。

 見て居る中に、次第に網守子の心へ変化が来る。何だか自分の身が、貴くなる様に思われる。自分は若しや、貴婦人と云う者に成ったのではないだろうか。貴婦人の定義は、度々路田梨英から聞いた。此の様な大なる財産を持って、今迄の様に自分を軽く思って居て好いで有らうか。路田梨英が居れば、聞いて見るのに、今は問うべき人も無い。


次(二十一)へ

a:118 t:1 y:0

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花