巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume200

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (二百) 網守子の上京

 竹「其れでも、梨英が其の様な事をする筈は、無いと思われますが。」
 谷「けれど、色々取り調べた結果、梨英自身が最近に、其の原簿の其の一冊を、借覧した一人であることが分かった。」
 竹「梨英の後には、誰も其の一冊へ、手を触れなかったでしょうか。」

 谷「何しろ日を経てから気が付いたので、其れは分からない。けれど丁度梨英の見た一枚が、切り取られたので、無論疑いが梨英へ掛かったのです。其れから調べて見ると、梨英が非常に貧乏な事も、殆ど食い詰め者の様な有様で其の土地へ入り込んだ事も分かり、其れから其の土地を去って、行方が知れない事などもーーー。」

 竹「行方が知れないとは無理だ。梨英は何も行方を暗ましては居ないのに。」
 谷「イヤ、お聞き成さい。其れから警吏が、私の所へ来て、取り調べると、梨英が大いなる先祖の財産を、受け取る積りで居たことが分かり、又梨英の戸籍が、ワルシーに関係の有ることも分かり、その後、警吏が毎日梨英の宿に詰めたけれど、行方も知れず、音沙汰も無い。其れや是れやで,扨(さて)は梨英と云う者は、自分の戸籍を変造するか、又は分からない様にして、其の上で大いなる利益を得ようと目論んで居るのだと、こう思われたのです。」

 成るほど、何んだか梨英を疑う事情が、積み重なって居るらしい。谷川は更に説明して、
 「是よりも、ズッと少ない手掛かりで、有罪とせられる例もあります。梨英の場合は、妙に事情が湊合して居ます。其の中にもワルシー市と筆捨市と、両方に同じ事柄が在ったのが、最も強い疑いです。

 是には私が警吏へ答えた言葉なども、有力な参考に成って居る様ですが、何にしても是は梨英の外に、誠の犯罪者が現れて出ない限りは、梨英に対する疑いが晴れない様な性質です。と言って外に誠の犯罪者が有ると云う手掛かりは、少しも無い。私も是から梨英の為に、尽くされる丈の手段は尽くしますけれど、何にしても困った事柄です。是だけの事情が揃えば、大抵の陪審員が有罪と認めます。」

 竹里は梨英の正直を信じるけれど、此の様に聞いて見ると、成るほど、梨英は逃れる道は無い様に思われる。是より更に両人で相談して、何にしても網守子に知らせて置かなければ成らないと云うことに成り、やがて谷川から電報を発した。其れは梨英が不意に捕縛された事と、其の嫌疑が甚だ重大であることを記したのである。

 此の日の夜に入って網守子から返電が届いた。
 「直ぐに上京する。」
と云うのである。網守子が上京したからと言って、別に仕様も無さ相であるけれど、此の又翌日の午後に及び、網守子は柳本小笛を供に連れ、殆ど喘(あえ)ぐほどの様で谷川の事務所へ着いた。全く網守子は夜を日に継いで来たのである。


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