巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (二百十六) 私も盗坊(どろぼう)だよ
 

 添子「貴方、貴方、貴方が私を盗坊だと仰っても、私も盗坊だと思いますから、無益な争いをするよりも、共々に知恵を合わせて、此の場合を切り抜ける工夫でも考える方がーーー。」
 江「もう其の様な道は無い。」
 添「でもお考え成さい。明朝は網守子が貴方を訴えるに決まって居ますよ。」
 江「其れだから夜逃げよ。旅費を寄越せ、旅費を。」

 添子は落ち着いて居る。
 「今夜逃げたとて、明日の晩は捕まります。船に乗る所で捕まららなければ、必ず船着き場でーーー貴方の様な名高い人は、逃げ果たせることが容易で無い。」
 江「ナニ、姿を変えるよ。」
 添「又例の贋髯(にせひげ)ですか。」

 江南は悔しそうに拳を握った。
 添「イイエ、愈々逃げなければ成らないならば、私も一緒に逃げます。もう貴方も私もお互いに愛想が尽き、共々に居ることは厭で有っても、二人の運命が此の様に搦(から)まって居る上は、致し方が有りません。互いに賎(いや)しみ合いながらも、生涯の相棒だと、諦め合おうでは有りませんか。」

 江南は否とも言わない。無言で聞いて居る。
 「其れで何とかして、一時でも網守子の訴へ出ることを、引き留めましょう。
 江「爾(そ)うさ。何(どう)か思ひ止まらせ度いと思い、色々に威嚇(おど)かしたけれど、其の功が無かった。」

 添「何としても、引き留めなければ成りません。引き留めて幾日でも猶予が出来れば、私も其の中に色々と用意をして、売れる品物は売り払い、取れる金は取り、成るたけは沢山の金を作って、徐々(ゆるゆる)と外国へ落ち延びます。」

 江南は前から、添子の知恵には一目置いて居るので、
 「其の様な事が出来るだろうか。網守子が検事局へ行くのを妨げる様に。」
 添「其処が相談ですよ。若し旨く行って、幾日でも猶予が出来れば、其の間に、茲(ここ)に預かって居る絵画や美術品を、売り飛ばします。盗坊で無い貴方は、其の様な不正な金は、お厭でしょうけれど、私は盗坊ですから、人の品と自分の品との見境いは有りません。斯(こ)う成れば、もう誰の品でも金に替えます。」

 江「イヤ私も盗坊だよ。賛成だ。賛成だ。シタが何として網守子を引き留める。」
 添「何としてでもーーー爾(そう)です。何とか嘘を作って、私が泣き附きます。此方(こちら)が強く出れば、何処までも強い女ですけれど、此方が弱く出れば、直ぐに涙脆(もろ)く同情する女ですから。」

 江「頼む。頼む。」
 添「ですが貴方は、両市で切り取った其の紙を何しました。焼き捨てましたか。」
 江「イヤ、今でも其のまま保存してある。」
 添「其れなら猶更(なおさら)旨(うま)く行きますよ。」


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