巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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         (二百二十八) 大変な詐欺に

 
 鰐革の嚢(ふくろ)は愈々(いよいよ)両商人の前へ置かれた。甲商人は自分の作った鑑定書を乙商人の前に広げ、
 「是だけの品が悉(ことごとく)く錫蘭(セイロン)島の産だから驚くでは有りませんか。」
 乙「本場錫蘭(セイロン)の品が、今時是れだけ一ケ所に揃って有ろうとは、思いも寄らない所でした。本場の品は紅の色が、特別に良くて、全く火の燃えて居る様に見えます。」

 甲「取別け此の品は、前世期紀の末から後世紀の初め頃に出た第一号紅ですから、前後に比(たぐ)が無いのです。」
 乙「今では大抵の品が第三号紅で、第二号紅でさえ稀で有るのに、第一号紅が此の様に沢山現れては、殆ど相場を狂わせますよ。」

 両商人は鑑定書に由って、色々に品評しつつ、頓(やが)て乙商人が、
 「では拝見致します。」
と云い、鰐革の嚢を開いた。
 彼は手に当たった一個を取り出し、一目見て怪訝(けげん)な顔と為り、直ぐに残らずを、鑑定書の上に播広(とりひろ)げた。
 彼の顔は忽ち曇り、

 「是は―ーーー、是はーーーー。」
と云ったのみで、後の言葉が出ない。最初鑑定した甲商人も同時に顔色が土の様に変じた。
 彼等は無言である。暫しがほど無言で喘ぎながら、頓(やが)て顔と顔を見合わせた。

 谷川は怪しんで、
 「何したのです。貴方がたは。」
 甲商人は漸く声を調(ととの)えて、
 「大変ですよ。是れは私の鑑定したのと、全く品が違って居ます。」
 谷川「其の様な筈は有りません。」
 甲「でも違って居ます。貴方は大変な詐欺に、お掛かり成すったと思われますが。」

 乙商人も断固として、
 「爾(そう)です。此の間違いの底には、必ず甚(ひど)い詐欺が横たわって居るでしょう。」
 谷川は未だ良くは合点が行かない。

 「詐欺などと、何処にも詐欺の入って来る隙間が有りません。貴方に鑑定を請うた後で、直ぐに銀行へ預け、その後私が、自分で直接に銀行から出して来て、此の金庫へ入れたまま、今まで納(しま)って有ったのです。尤も其の間に一度、人に見せたことが有りますけれど、其れは五分か十分の間で、少しも私の目を離さず、而も其の人は、手にさえ触れません。詰まり申せば、私より外に手を触れた人が無く、私の肌身を離れなかったのと同じ事です。」

 谷川の心には毛ほどの疑いも無い。
 甲「イヤ何で有ろうと、全く品物が違って居るから、致し方がありません。」
 谷「何う違って居ます。」
 甲「何う違って居ると言って、全くお話に成りません。」
 乙商人は腹立たしそうに、

 「他の専門家を呼んでお見せ成さるが宜しいでしょう。我々はもう何にも申さずに、手を引く外は有りません。何にしても大変な詐欺事件だ。前代未聞の恐ろしい大詐偽だ。」
と云って、早や立ち掛けた。
 其の様子が全く只事とは思われない。


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