巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

since 2016.2.5

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            (三十五) 結婚を申し込むのさ

 同情、名誉、利益と言う、三個(みっつ)の攻め道具で網守子を攻める、と言うのが江南の作戦計画であるらしい。
 添子「お金の額は?、千円?、二千円?。」
 江南「三万円無くては成らないが、三万五千円と云って貰おう。」

 添「其の様な大金を。」
 江南「和女(そなた)には大金でも、網守子には塵一本にも当たらない。成るべく多く言うだけ、此方の信用が高くなるけれど、先ず三万五千円(現在の約3600万円)に止めて置こう。」
 添「私には言われませんよ。」
 流石に添子も、手に余ると思った。江南は凄(すさ)まじい顔付きとなり、

 「何うしても和女には、此の無心が云われないか。」
 添「見込みの無い事は、言い出して恥を掻くよりも----。

 江南「宜しい、それでは私から直々に言い込もう。」
 添「貴方の口から此の様な事を言われるのですか。」

 江南「私しから言い込む時は、少し今の文句とは違う。真逆(まさか)に蛭田江南の顔を以て、三万や四万の金を、一婦人に無心を言うことは出来ないから、結婚を申し込むのさ、此の方ならば、今から一月の中に成功するに極まって居る。そうして愈々夫婦と言う約束が出来れば、何も三万や四万の目腐れ金は必要が無い。」

 添子は、
 「貴方は、貴方は」
と言う以上に言葉は出ない。江南は全く真面目らしい。
 「結婚を言い込んで、断られれば運の尽きさ。兎に角、今から運動を始め、成るべく網守子の機嫌を取り、承諾する様に仕向けて見る。和女には気の毒だけれど、背に腹は替えられない場合だから、許してお呉れ。」

 添子の眼には、世に江南ほど立派な男は無い様に映じて居る。江南に結婚を言い込まれて、断り得る女が此の世に在ろうとは思われない。又江南自らも、今までの自分の経験から考えて、其の通りに思って居るらしい。添子は忽ち江南の両手を握り、
 「では私が言い込みます。言い込みます。」

 江南は少し心が解けた様に、
 「オオ言い込んで呉れるか。私だって何も自分の愛さぬ女へ、結婚など言い込み度くは無いのだから!」
 是だけは嘘か誠か分から無い。
 「ーーー、和女がうまく運んで呉れれば、何より嬉しい。」

 添「ですが、私の掛け引きでうまく其のお金が手に入れば、私を何うして下さるのです。何時までも辛い後家さんの真似などは・・・・。」
 江南はズーと優しくなり、
 「そうとも、其の時は和女の苦労の終わる様にして上げるよ。直ちに和女を引き取って、蛭田江南の令夫人として世間に発表し、永く幸福に同棲する事にするよ。」

 添子は嬉しさと悲しさとの涙声で、
 「必(きっ)とそうして下されば、私は何ほど難しくとも、必ずお金の出来る様に、何の様な辛い思いをしても成功させます。必(きっ)とですね。貴方、必(きっ)と今言った通りにして下さるのですね。」

注;この物語が書かれた大正二年の1円・・・・現在の1027円

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