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妾(わらは)の罪

黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

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  妾(わらは)の罪    涙香小史 訳   トシ 口語訳

                 第四十五

 弁護人大鳥は言葉を継ぎ、宛(あたか)も念を押す様に、
 「この様な訳ですから白状する他はありません。如何ですこれでも白状するのは嫌ですか。」
 (妾(わらわ))貴方が白状せよと仰(おっしゃ)るのをどうしても嫌とは申しませんが、一度白状したらたとえ陪審員が無罪にしてくれても、世間では何時までも私を殺人嬢と言うでしょう。洲崎嬢を殺した者と思うでしょう。

 (大)それはどうも分かりませんが、それでも白状しないために有罪の宣告を受けるより増しでしょう。有罪の宣告を受け、一度刑に服す上は、刑期が満ちて出獄しても貴女は世間に顔向けが出来ません。
 (妾)それでは白状さえすれば必ず無罪になりますか。
 (大)イヤ、そうは決して請合われません。白状するのは即ち罪を犯したと名乗るのですから、必ず助かるとは私も請合いませんが、それでも知らない知らないと言い張るよりは、無難だと思います。詰まり、白状しなければ弁護が難しく、白状すれば弁護がし易いと言うだけの事です。どちらにしろ弁護はしますけれど、唯し難かしいか易しいかと言うだけの違いで、そのし易い方へ決めるのが貴方の為でしょう。

 (妾)それでは何と白状するのです。
 (大)サア、そこが大事な所です。唯この罪を犯した覚えがあると名乗るだけでは我が罪を重くするばかりですから、なるべくもっともらしい事情を作り、うまく言葉を構えるのです。
 (妾)言葉を構えるとはどの様な具合に。
 (大)サア、その構え方が大事です。これについては私も色々と考えて見ましたが、貴方は第一村上の事について、嬢に辱められた事があると仰いましたよ。
 (妾)ハイ

 (大)辱められてそれが為に病気になったほどでしょう。
 (妾)ハイ
 (大)そうすれば嬢はあなたに対して非常な失礼を加えたと言うものです。病気になるほど人を辱めるのは容易な事ではありません。それから貴方が村上を突き落とした後で再び又非常な辱めを受けたとこう言い立てるのです。
 (妾)非常な辱めとはどの様な事を。

 (大)先ず貴方が村上を突き落としてこれは大変だから、父を呼び、村上を救い上げなければならないと思って家へ駆け込もうとする時、嬢に捕まったとこう言うのです。これを分かり易いために貴方の言葉にして言ううなら、裁判官閣下よ、私が村上を助けるため家へ帰ろうとして、潜り戸のところまで駆けて来ますとそこに洲崎嬢が居まして、両手を広げて私を通しません。

 「オヤオヤ、華藻さん、貴方は村上を殺して置いて逃げようとしても逃がしませんよ。村上は私の夫です。とっくに私と夫婦約束をしたのです。それを貴方は悔しがってこの池の傍へ連れて来て、色々と説いたけれど、村上が聞かないから貴方は益々悔しさに目がくらみ村上を突き落としたのでしょう。それを知らない顔で逃げようとはあんまりです。サア、貴方は夫の敵です。今度は私が貴方を突き落としてあげます。」

と言いながら私にしがみつき土手の所に押し返そうとしますから、私も押し返されてはならないと、嬢の手を振りほどこうとしましたけれど、何分にも病気上がりのことと言い、嬢の力には叶いませず、押され押されて池の傍まで来ましたが、その時草が足に絡まり、私が仰向けに倒れるはずみで嬢は体の心を失ったか、池の中に落ちてしまいました。あまりの驚きに私は度を失って直ぐに家に駆けて来ましたが、その後は病気が再発して夢中になり、如何したか知りません。父と医者にお問いくだされば分かります。

と先ずこの様な事に言い立てるのです。そうすれば何処までももっともらしく聞こえるから、判事と陪審員はも嘘だとは思いません。私が白状せよとお勧め申すのはまずこの様な白状です、これならば嘘にもせよ、害になるうそではなく、貴女を無罪になった後まで、人が貴女を咎めるようなことは有りません。

 アア、流石は弁護人である。巧みにも言い拵(こしら)えたものである。この様な白状ならば初めに思ったほどでは無い。
 「それでは村上を突き落としたことは、何と言いますか。」
 (大)アレはあのままで好いのです。貴方は古山に責められて、村上と駆け落ちする心になり、池の傍で村上に勧めたけれど、彼が駆け落ちは嫌だと言うから、貴方も拗(す)ねて見せたところ、村上がその怒りを吸い消そうと顔をこっちに寄せて来るので、
 「いけませんよ。」
と払うと共に村上は足踏み外して落ちたのだと言うのが一番です。

 (妾)それからなぜ家を逃げ出したのかと問われたら。
 (大)それには又言い様があります。もし池の中から二人の死骸が現れたら、世間の噂がやかましく、どうしても我が身の罪となり、世間へ顔向けが出来ない様になるだろうから、その恥を見ない間に、人の知らない所に身を隠して死んでしまう積りで家を出て汽車に乗ったところ、後から古川がやって来て無理にサレスへ連れて行ったと言うのです。

 こう言えば古山を殺したことも全く神経病にしてしまう事が出来るから、矢張り弁護がし易いのです。二人とも我が為に池に落ちたのに今迄取り出さず、一通りの葬式さえ営まずに捨てておいたと思えば我が罪が恐ろしく、それがために終に神経を狂わせたが、時々嬢と村上の泥に塗れた姿を見る様な心地がしたと、こう言えばこれに上を越す言いようはありません。私のお勧め申すのはこれだけの言い立てです。

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