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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面30

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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          第二十一回                a:1402 y:0 t:1

 オーニエル川の水車場までは何事もなく着き、一同はここで一泊したが、どうした事かこの夜、厩(うまや)から火が出て、モーリス、バンダ、コフスキー、アリーらの馬を初め他に七頭ほどが焼け死んだ。ただ、オービリヤ大尉他三名の馬だけは助かった。モーリスはこの災難に非常に腹を立てたが、今更どうしようもなかったので、今後はもっと注意するように戒めて、なぜ火事になったのかなどの原因をはっきりとは調べなかった。

 とにかく、代わりの馬を買い入れなければ、これ以上進むことが出来ないので、この家の主人を連れて、馬買いのために、一同を待たせておいて、出かけて行った。一方バンダはこの出来事に非常に心配をした。この様なことが起こるのはやはりブリカンベールのような、何に対しても油断しない男が居なくなったからだと思い、あるいは又、もしも我が同志の中に敵に寝返った者がおり、敵に待ち伏せさせるために、わざと厩(うまや)を焼き一同を遅らせようとしているのではないかと疑った。

 頭の回転の早いコフスキーを側に呼び密かに、その意見を聞いてみると、コフスキーも同じ考えだった。彼はまだオービリヤ大尉を疑っていた。彼によると、昨晩大尉はしきりにこの家の主人とひそひそ話をしていたと言うことだ。また、大尉の馬が無事だったのもあやしいと言い出した。もちろんはっきりとした証拠も無いので、取り上げる事は出来ないが、頭の回るコフスキーの言葉なので、バンダも軽々しくは聞き流しには出来なかった。

 これからは、それとなくオービリヤの動きに目を付け始めたが、彼は相変わらず親切な軍人で、モーリスの留守と言っても一つも変わったところがなく、何から何までよく気を付け陰ひなたなく部下の兵をいたわり、その勇気を起こさせる様なことばかり言い聞かせていた。バンダに向かっても今にモーリスが良い馬を買え入れて帰って来るから、初めての馬にはどこどこの癖に注意しろなどと、ためになるアドバイスを与えたりして心を慰めていたので、バンダは数分も経たない内にコフスキーの言葉を忘れたと言うわけではないが、そんなに気にも留めなくなっていた。

 それよりもモーリスの帰りを待ちわびていたが、やがて昼が過ぎ、二時、三時の頃になっても、モーリスはまだ帰って来なかった。一緒に馬買いに行っていれば、こんなに待ち遠しい思いをしなくても良かったのにと、今更どうしようもないことを悔やみ、又数時間を待った。日も全く暮れてしまったので、バンダは一人窓に寄り、もしやモーリスは何かの手違いで敵の手に落ちてしまったのではないかと、モーリスが出かけて行った方角の空を見ていると、そこへオービリヤ大尉もいつになく心配な様子でやって来て「どうも余りに遅すぎるようです。これから私も捜しに行こうと思いますが。」と言う。

 オービリヤまでこの様に言うからには、よほど心配なことが起きたに違いないとバンダはもう涙ぐみ「私も一緒に参りましょう。」と言うと、オービリヤは少し驚き「奥方、そうおっしゃるのはごもっともですが、もしもモーリス殿の身に何かあったら、事によるとその場で我々が敵の中に、切り込まなければならないかも知れません。貴方が立ち会う場では有りませんから、私に任せておきなさい。私は兵士の中から五、六人を連れて行きますから、貴方は馬丁のアリーでもコフスキーでも、貴方が信用できる者を一人連れて、とにかくブリュッセルへお帰り下さい。遅くても明後日までには私から連絡します。それで又、モーリス殿が無事で帰られたらすぐにお迎えに行きます。」

 バンダは心配して益々顔色を変えたが、この親切な申し出を聞いては、まさかコフスキーが疑っているように、この人に偽りが有るとは思えず「はい、もう一時間ぐらい待ってみて、それでも帰らなかったら何とかしましょう。」大尉は軍人の気風を示し「エッ、今一時間、その様に延ばす中に我々の心配は増すばかりです。モーリス殿に万一の事でもあったら、救出が一時間遅れるのは事によると百年の遅れになります。」

 この言葉はバンダの胸には毒矢の様にこたえた。バンダは今は泣き声になり、「それではすぐに出発して下さい。私の身は後でどうにでもしますから。」大尉は早速出発しようとして、何か思いだしたように踏みとどまり「おお、心配の余り忘れていました。」実はーーと言いかけ、声を虫の声のように小さくして「実はモーリス殿から、もしものことがあったらと、堅く頼まれていたことがありました。

 今はその頼みを行う時かと思います。奥方。」「はい」「こうなったら、貴方の身だって安全とは言えません。我々一同明日も知れぬ身ですから、我が党の秘密を最も堅く守っておかねばなりません。前からモーリス殿が私に、自分が死んだら自分の代わりに、我が党の秘密を守ってくれと言っておりました。バンダ一人では、女の事なので頼りなく思うから、オービリヤ、お前が聞いておいてくれれば、とこのように」バンダは自分がしっかりしなければと思いながら「とは何の事ですか。」「貴方の預かっている手箱の隠し場所です。」

つづき第22回はここから

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