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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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白髪鬼

マリー・コレリ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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20010.3.25

マリー・コレリ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

白髪鬼

         (〇) (訳者の前置き)

 私は、先年不思議な一篇の事実談を非小説と題して掲載したが、その中にムシュー・ヘリーと言う人が死んで、その後蘇生した事を記した。
 当時、読者の中にはこれを事実とは考えられないと言い、一度死んで、医者に死人と認定された者が生き返るはずがないと言って、はるばる書を寄せて、私をなじる者もあった。諸所で非難の声も聞いたが、「事実はかえって小説よりも奇なり」とはこのことだ。

 死んだと見えて死んだのではなく、少しの間、命を停止されていたものだ。その例は色々有ると見え、しばしば洋書に散見するところだが、中でも、米国文学家、故アラン・ポー氏の記すところのごときは、英学者ならたいてい読んで知っているところなので、私は同氏の記事を例に引き、こんな事もあると答えて説明して来た。

 後に、あの実歴鉄仮面を訳するに当たり、またオービリアがカタコム(蓄骨洞)から骸骨になって生き返った一節があったが、かって読んだボアゴべー氏の大復讐といえる小説にも、ゴントラント・ド・ケルガスという者が地底から蘇生してきて、元愛人をスイスの山頂で救うという一節があった。私も少しは心に迷ったが読者もまた迷うだろうと察せられる。

 しかしながら、これらはどれも、一昔前のことなので、近年このような事はないか、もしあったらその顛末を知りたいと思い、これを医者の某氏に尋ねてみたところ、蘇生の例は時々あり、その最も最近のものは1884年(明治17年)イタリアで伝染病が流行したとき、これに感染して死んだ一人が墳墓の底から生き返った一例があると言った。その生き返った人は何という人かと聞くと、ネープル府(ナポリ)の貴族ハピョ・ロウマナイ氏だと答えた。

 この人が本当に生き返り、今もまだ生きているなら、きっと、何かこの人がその後に書いた文章が有るはずだ。他人が書いたものはあてにならないので、本人が自ら書いたものはないかと聞いたところ、その医者は知らないと答えた。ただ、最近の西洋医事新誌に雑報として書いてあったのを見たのだと言う。それで私はその新誌を借り受けて読んでみたところ、下記のように書いてあった。

 ある自然の作用により一時生命が停止され、全くの死人となった者が、ある時を経て生き返る例は、もはや珍しいように記すまでもないが、これもその一つか。1884年の流行病で死去したイタリアの貴族ハピョ・ロウマナイ氏がいつの間にか蘇生した事実はたしかである。その後、ネープル府(ナポリ)で社会の上下を驚かした大事件も実は氏が関係したものだと言う。

 ただこれだけのことだったので、私はほとんど失望したが、更に念のため、西洋の書店に手紙を送り、何かハピョ・ロウマナイという人が著した書は無いか、広くその地の書店に捜索してくれと言い送ったところ、時を置かず返事が来た。

 それによると、ロウマナイ氏は目下その自伝を著作中で、脱稿しだい当店から出版する予定なので、その節はすぐに送ります。ただし、代金はいくらなのでその時までにお送り下されたい云々とあり、私はうれしさに耐えられず、首を長くして待っていたところ、この頃の船便でその著作を送ってきた。

 開いてみると、氏が死ぬ前から生き返った後の事件までを書いたもので、その生き返った様子はあのオービリヤがカタコム(蓄骨洞)から脱出する時の様子とほぼ同じだが、全編の記事は実に人情の極致を描いたものだった。これは架空の小説に比べれば目をくらますような波乱は無いが、小説家の誰しもが描こうと欲して今だ描けないでいるところのものだった。

 「平凡にしてしかも無類」Plain but original とはこの種の趣向のことをいうべきか、私は英米の小説も、フランスの小説も、ロシアの小説も、ドイツの小説も多少は読んだが、この書のように読み終わった後に無情の感にたえないものは読んだことはなかった。

 イタリア人は多恨多涙にしてしかも執念深いと聞いていたが、多恨の人にして初めてこの種のことが書けたのだろう。読んで面白くないと言う人もいるだろう。痴情に過ぎると言う人もあるだろう。世間にありがちなことだけだと笑う人もあるだろう。

 確かにありがちなことだが、その事実は無類だ。ただ拙劣な訳文を以て原書の趣を抹殺するのは私のはなはだ恥じるところだが、事実を報道する雑報だと見てもらえれば、架空のつくり話よりはむしろ、新聞紙の本職に近いと言うことができるのではないだろうか。
                                                        涙香織す  


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