巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

hitokaonika0

人耶鬼耶(ひとかおにか)  小説館版

エミイル・ガボリオ原作 「ルルージュ事件」 黒岩涙香 訳 トシ 口語訳

since 2024.9.1

下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください 。

文字サイズ:

a:53 t:1 y:0

     (第0章‎)人耶鬼耶 緒言(ちょげん)
 (*緒言は原文のまま載せます。

 余今回訳述「人耶鬼耶(ひとかおにか)」と題せる此の一篇ハ、仏国にて、古来其の例(れい)なき大疑獄の顛末なり。大疑獄とハ、其の事件の大なるにハ非(あら)ずして、其の事柄の疑わしく、罪人の判じ難きを云ふなり。

 余が此の篇を訳述するハ、世の探偵に従事せるものをして、其の職の難(かた)きを知らしめ、又世の裁判官たるものをして、其の職の難(かた)きを知らしめ、又世の裁判官たるものをして、判決の苟(いや)しくも軽るんずべからざるを悟らしめんが為なり。

 之を切言すれバ、一(ひとつ)ハ、人権の貴(たっと)きを示し、一(ひとつ)ハ法律の、軽々しく用うべからざるを示さんと欲するなり。

 一、斯(か)くの如き目的を以て訳述するが故に、或るひハ記事煩はしくして読者を、厭(いと)ハしむる処多かるべし。殊に我が国従来の小説を読み慣れたる方々ハ、屡々(しばしば)中途にして倦厭(けんえん)《飽きて嫌になる事》の念を生ずる事もあるべし。

 然れども初め疑わしくして、後に至り、雲晴れ霧散ずるハ、疑獄小説の常なるに、矧(ま)してや此の篇の如きハ、小説に非(あら)ずして事実なるが故に、其の憾(うら)み《欠点があるのを残念に思う気持ち》は殊に多かるべし。

 唯だ余が強いて願ふハ、初めより終わりに至るまで、満遍なく読み通ほされん事なり。所々の無味なる所を読み落としてハ、有味なる処までも、味わひ得ざるに至るべし。読者乞ふ。all or nothing(読む位ならバ残らず読め、残す程ならバ、丸っ切り読むな。)の一言を記憶せられよ。

 一、翻訳の難(むずかし)きハ、世既に定説あり。中に就き小説の如きハ、人情の微に入るが故に、至難中の至難なり。況(まして)や余の如きハ、僅(わず)かに読む事を知りて、書く事を知らず、自ら意到って筆従はざることを嘆ずるものなるをや。

 文の拙(せつ)なるが為に、事実の奇を損するの罪ハ、余が恥ずかしながら、又残念ながら甘んじて受くる処なり。

 一、翻訳の文ハ、原文に拘制(こうせい)《とらわれる事》せらるる処多きを以て、動(やや)もすれバ流暢(りゅうちょう)を欠き、佶屈鰲牙(きっくつごうが)《文章が難しく読みにくいこと》読むに堪えざるに至るハ、読者の知る処なるべし。殊に其の地名人名の如きハ、我が国に在り触れたるものと異なる為め、記憶し難き思ひあり。

 余が先に訳したる「大盗賊」の如きハ、強いて漢音の近きものを当箝(あてこ)めるの例に倣(なら)ひたれど、余ハ其の利益少なきを悟りたるを以て、此の篇に於いて、成るべく和訓の近きものを当箝(あてこ)むべし。例えハ「コモリン」を小森とするが如き是なり。

 一、翻訳難(むずか)しと雖も、書を選ぶも亦易すからずぞと、或記者ハ言ひたるが、余は深く其の言の妙を感ずるなり。余、洋書を読み覚えてより、西洋小説の妙を感じ、毎月少なきも十数部、多きは三十部以上を読まざる無く、終歳(しゅうさい)書の為に貧し、今まで読み尽くす所三千部の上に至ると雖も、翻訳して妙ならんと思はるる者ハ、百に一を見ず。

 読者之を恕(じょ)《許す》せよ。
        
                              涙香小子 識


a:53 t:1 y:0

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花